俺、満喫します。
「ここが三人部y・・・おっと、違ったわ。こっちの隣の部屋が、あなた達の部屋よ」
「今三人部屋ありましたよね」
「・・・ここが、あなた達の部屋よ」
「この人無視しちゃったよ・・・」
連れてこられた部屋は、見るまんま一人部屋って感じで、なんとなく実家の部屋と似ていた。
一人で泊まる分には全く不備の無い、寧ろ良い具合に広く落ち着いた雰囲気で好きなのだが。
「・・・ベッド狭すぎだろ」
ベッドも一人だと全く問題ない大きさだが、ここで三人は無理がありすぎる。
「荷物とかはそこのクローゼットに入るし、冷蔵庫も10本くらいなら瓶も冷やせるから、自由に使って。あ、そうそう、これがここの鍵ね。外に行くときはカナか私に預けてくれればそれでいいから」
なんだか宿泊と言うより居候かお泊まりって感じに近いな。
鍵も至ってシンプル。普通の、何処にでもある金属の鍵だ。
「どうも。・・・それで、まだ昼過ぎだけどどっか遊びに行くか?」
「いくっ」
「いきたいですっ」
「・・・とのことなので、遊びに行ってきます」
「あらあら、それならこの店を出て右にずっと行って突き当たりを左に行けば水族館があるから、行ってらっしゃいな」
「おお、助かります。それじゃ、そこに行こうかな」
「はい行ってらっしゃい。あ、鍵はここで貰っておくわね。あと貴重品は持った?盗まれないようにね?」
「あはは・・・」
何というか、ほんとにおばあちゃんちにお泊まりって感じだな。
「それじゃ、行ってきます」
「はいよ、気をつけて行ってらっしゃい」
と言う事で、皆で水族館に行くことになった。
前の町には無かった施設だから、正直すっごくわくわくしている自分がいた。
† † † †
「それにしても、人が多いな」
「そうだね」
多分珍しい町と言う事もあるのだろう、この町の中はかなりの人数でごった返していた。
昼は静かで夜はうるさいメイフィストだが、ここノーアは一日通して元気なんだろう。
嫌いな雰囲気じゃないが、慣れない人混みにあてられない様にしないとな。
「・・・シュウ」
「どうした?」
呼ばれミルの顔を横目で覗く。
すると、早くも人にあてられたのか、かなり顔が赤く染まっていた。
「人混み・・・だね」
「うん・・・?」
人混みだね・・・、うん、そうだね?
何が言いたいのか、俺にはよく分らなかった。
「はなれると、たいへん」
「?・・・そう、だな」
「・・・」
「ミル?」
ぷしゅーと湯気を上げるミルは、口をもにゅもにゅさせていた。
「・・・はなれると、あぶない、だからっ」
俯いて赤くなるミルはそっと手を伸ばし、俺の服を軽くつまむ。
「・・・て、つないで」
なんだ、そういうことか。
恥ずかしそうに言うミルの手を、上からそっと包むように握り、手をつなぐ。
「これでいいか?」
「・・・!!!あ、あぶないからっ、だからねっ」
自分からねだった癖して何を慌てているんだか。
・・・でもまあ、多少恥ずかしい気持ちも分らなくはない、な。
「そ、それじゃいこうか」
「う、うん」
俺が歩き始めると、ミルの手が少しピクっと跳ね、それから少し強く握ってきた。
暖かいミルの手が俺の手を優しく包む。
大丈夫かな、手汗とか出てないかな。何だろ、意識し始めるとなんだかこっちまで赤くなってきたな。
それにしてもミルの手ってこんなにぷにぷにしてたんだな。ちっちゃくて、力一杯握ったら弾けちゃいそうな、そんな感じがする。
って、いやいや、俺は何を考えてんだ。これじゃほんとに変態だよ。
い、いやでも、よく考えたらミルも女の子で、・・・って事は、これ昔あこがれてた『女の子と手をつないでデート』みたいなもの・・・ていうか、これ端から見たらデートなんじゃ・・・っ!!?
「あるじさまとミルさんは私の存在を忘れてるんですかそうですか」
「「っ!!」」
「わ、忘れてないよ!なぁにいってんだよ、は、ははは」
「そ、そうっ。変なこと言わないっ」
雪月に指摘され、咄嗟に手を離す。
「・・・まあ、私はミルさんが報われればそれで・・・ふぐっ!?」
手を離したと思えば、なにやらしゃべり出した雪月の口を押さえ、凄い至近距離でブツブツ言ってる。
顔を真っ赤にして、必至で何かを隠そうとするミル。
眉をハの字にしてあははと苦笑いする雪月。
「???」
やっぱり女の子同士、何か秘密の共有でもしているのだろうかと、俺は変に納得をしていた。
それからほんの数分で着いた水族館を何時間もかけて見て回った。
珍しい魚や、ヒトデと言う、ほんとに人の手に見える生物、貝の癖に人を50人以上殺せる奴だったり、いろいろいた。
触れ合い広場の様なものでエイやサメに触れていた二人は、凄く楽しそうだった。
俺はその間、お土産ショップに寄っていたが、特にお土産を渡す相手も居ないし、正直良さもあまり分らない物が多かったから何も買わなかった。
夜ご飯もその水族館に併設されているレストランで済ませたが、『獲れたての魚を刺身にして食べる』というショーが行われた時は少し残酷なことをするものだな、なんて思ったりもした。
でも、全体を通してとても楽しい思い出になったことは事実だ。
これを教えてくれたカナのお母さんには何かお土産を買っていっても良いかな、なんてことで、三人でカナとそのお母さんのお土産を選んで帰った。
宿屋に着き、これ、教えてくれたお礼です、と言って渡したお土産を「そんな、いいのに」と謙虚にしていたが、顔はとても嬉しそうだったからこっちまで嬉しい気持ちになった。
カナにも同様に渡したが、「わあ!ありがとう、シュウ!」と笑顔で抱きついてきたときには死ぬかと思った。
あの時のミルの顔と言えば、浮気した夫を見下すような冷たい目だったな・・・。
風呂も、浴場なんて立派な物は無く、少し広めの湯船とシャワーだけであった。
やはり海に面しているからか、水を出し続ける事への抵抗が少ないようで、俺達の居たメイフィストでは貴重だった水資源もここではあって当然と言った様だった。
その為、シャワーを浴び続けるという贅沢な気分が味わえた事に俺は感動していた。
そんなこんなで、もうすっかり寝る時間になった。




