俺、食します。
「はいお待たせ。今朝獲れた魚を使った海鮮丼、おまちどおさまぁ」
「おお・・・!」
「これはすごい・・・」
「おいしそう・・・」
それから数分、大きなお盆にどんぶりをのせたカナの母親が裏から出てきた。
もってきたそれは、・・・もう一つで3人前くらいにしか見えなかった。
「いただきますっ」
「いただきまーす」
ミルと雪月は何も問題無さそうに箸を持つ。
流石胃袋おばけだな。マントを買った日のことを思い出すよ。
あの時も一番最初にダウンしたのは俺だったっけか。
今回も俺が一番最初に・・・いや、これは食ってやるぞ。
何せ新鮮な魚介類が目の前にあるんだからなっ。
「いただきます」
手を合わせ、食事の前の挨拶をする。これ大事。
「召し上がれ」
まずこの突き出てるエビの頭を取っていこうか。
三匹が器に顎を乗せてるみたいに寝そべっている。
器用に殻を外し、ほんの少し醤油を付けて、一口。
・・・!
「うんまいなこれ!」
素材の味を存分に生かすために醤油を少量にしたのが正解だった。
身はぷりぷりで濃厚。噛めば噛むほど甘みが口いっぱいに広がっていくこの感じ、食感のするバターを食べているような濃厚な甘味。
バターは醤油と相性ばっちりなんだ。このエビが美味しくない訳が無い。
先に海鮮丼を食べていた二人もきゃっきゃ言いながら美味しく食べている。
ここでもやっぱり笑う二人は凄く見ていて微笑ましいな。
「それじゃ次は・・・と」
白身魚を一枚箸で掴み、下にあるご飯と一緒に口に運ぶ。
ご飯を白身魚で包むようにして、一種の握りみたいにして食べる。
最初にかけていた醤油だけの単純な味付け、これはどう出るか。
「・・・美味い、美味すぎる」
もはや泣きそうなレベルで美味しい。
新鮮な魚だから歯ごたえのあるコリコリとした食感。
身は淡白な薄味。されど脂の乗り具合から分かるこの「大きく育ちましたよ」アピール。
姿を見ずとも分かる豊満な肉付き。もし俺がこの魚の同類であれば即座に交尾するため馳せ参じただろう。
ここでもやはり醤油の万能さが際立つ。
味付けとしても優秀な彼だが、しっかりと素材の味を引き出している。
ここまで合う調味料は他に無い。唯一無二と言って良いだろう。
この世界にたった一つの組み合わせ。世界の摂理。S極とN極が惹かれ合う様な。
これはまさに。
・・・ユニバース・・・。
って違う、俺は食レポしにきた訳じゃ無い。
ほら見てみろ。長時間目を閉じて涙なんか流してたから皆して「何コイツ頭おかしいんちゃう」って顔してるじゃんか。
「あ、ああいや、えっと、めっちゃ美味いですね、あはは」
苦しい、流石にこのコメントは苦しいぞ俺・・・。
一話の約3分1も使うほどの事だったのかはさておき、俺が長考している間にミルと雪月は半分以上食べ終えていた。
† † † †
「ふう、食べたな・・・」
「うん、お腹いっぱい」
「ですね-・・・」
食べ終え、食事中には感じていなかった満腹感が今になって到来していた。
美味さ故に忘れていたけど、あのどんぶりバカみたいな量あったもんな。
「・・・私も食べたくなってきたな」
そんな事を呟いたカナ。やっぱり近くでご馳走食ってたら食べたくなっちゃうよな。
「お母さん、私も食べたくなっちゃったあ」
「バカな事言ってないで、食器洗うの手伝いなさい」
「えー・・・はーい・・・」
当然店の主である母親から叱られ、しょんぼりしながら裏へ入っていった。
「ははは」
「大変そうだね」
「そうだな。俺達はきっと経営とか無理だな」
「うん」
それならやっぱり幾分かはファントムブレイカーの方が楽ではあるのかな。
まあ、その分死と隣り合わせだと言うことを考慮しないと行けないけどな。
無理は禁物!実際に何度も死にかけた俺が言うんだから間違いない。
「・・・シュウ、また下らないこと考えてる」
「何故分かった」
「いつものことだから」
ミルにはどう頑張っても適わなそうだ。
「それで、どうする?まだ泊まる場所決めてないけど、このままここにするか?」
「・・・」
「・・・」
「・・・なんだよ」
「・・・別に」
「あるじさまは、やっぱりすけこましなんですか」
「なんでそうなるんだよ・・・」
俺何も咎められる事してない気がするんだがそれは気のせいなのか。
「そもそもあるじさまはおかしいです」
「うんうん」
「何故道を尋ねるときに、話しかけやすい男性ではなく女性、カナさんに話しかけたんですか」
「うんうんっ」
「そして何よりにぶちんが過ぎます。いろいろあったんだから気付きましょうよ」
「うんうんっ!」
「それはもう天然と言うより分かっていながら知らんぷりをするくすんだ金髪のヤンキーもどきですっ」
「うんうんうんうんっ」
「圧が、二人とも圧が凄いんだけど」
道を尋ねるのは、そりゃ近かったってだけで他意は無いし?
てかくすんだ金髪のヤンキーもどきって誰だよ。気になって夜も眠れないわ。
「また違うこと考えてる」
「い、いやこれは別に」
「良いと思いますよ別に。ここに泊まっても良いと思いますよ別に」
なんでそんな別にを主張した言い方にするんだよ。謎多き事この上なしだな。
「あら、お取り込み中だった?」
なんかわからんうちに説教されていた俺をよそに、茶碗洗いが終わったのか、カナの母親が出てきた。
「い、いや、何でも無いですよ」
「あらそう?それで、うちに泊まっていく?」
「ええ・・・と・・・」
聞かれ、ミルと雪月を見やるが両者共にふいっとそっぽを向く。
「と、とりあえず一日は・・・お願いします」
「まいど」
はあ、いつから俺はこんな情けなくなったんだろうか。
「ああそうだ、昼飯代はいくらですか?」
「ううん、これも宿泊代って事にしておくからいいわよ」
「あ、どうもです」
「でも、うち大きな店じゃないから・・・」
そういった母親は、ほんの少し口角を上げ
「寝るところ、三人一緒の部屋でベッドなんだけど、良いかしら」
うふふと笑う母親の顔は絶対にいたずらする時子供がするような、それだった。
「んな訳ねー・・・」
宿屋で他に客がいなくてベッドが一つとかあり得ないだろ・・・。
「・・・だってよミル。嫌だったら他のとk」
「いい」
「・・・え、いやだって同じ部屋で同じベッドだぞ?別に無理するひつよ」
「いい」
「・・・ミ」
「いい」
「ええ・・・」
何故か頑固に他の所に行くと言う選択肢を言わせないミル。
顔色を伺おうとしてもすぐそっぽ向くから分らないし。
分ると言えば耳が少し赤くなってる事くらいか。
尚もうふふと笑う母親に俺ははてなを浮かべ続けた。




