俺、迫られます。
「見えてきたな」
「うんっ、凄いっ」
「きれいですねっ」
俺達は奥に覘く、水の都ノーアを前にして感嘆の声を上げていた。
左に見える海は所謂入り江と言うやつで、皆が想像するようなでっかい海では無いが、そこら辺の湖と大差ない程には広大だと言って良い。
その海に隣接するような形で造られた町がノーア。
前述したと思うが、この町は水産業が盛んに行われていて、ここで獲れる魚は年中脂が乗ってて絶品と噂だ。
そして何より見た外観が美しいのだ。
行商の者や旅人を出迎える入り口は、左右の柱の上に銅像の魚が二体、狛犬のように見守っている。
そこを抜け正面のでかい建造物に目をやると、噴水では無いのだろうが、頂点から水が溢れ出し、人工水路に水を流している。
その水は町の上を通り、透明なパイプの中を魚が優雅に泳いでいる。
きっと養殖の魚をそこで飼っているんだろう。
そう、この町は下を向いても水、上を向いても水のある、完全に水に囲まれた町だった。
それを遠くから見てた俺達は感激していた訳だ。
「着いたら何する?」
「魚食べる」
「魚を食べます」
「しってた」
当然ミルも雪月も食うこと以外頭に無い様だった。
水が光を反射するものだから、町が眩しくて仕方が無い。
そのせいできっと美しく見えるんだな、と思う。
「でも良かったな」
「なにが」
「ガルド・バース・ドラゴンがこっちに来てなくて」
「あ、うん」
「あいつが居た場所からここって結構近いだろ?だからよく襲われなかったなって」
「そうだね」
もしあいつが山をの向こうではなく、こっち側の町に来ていたらほんと大惨事だったからな。
まあ、それを防ぐためにも急いで戦場に向かった訳だが。
「そうだ、そろそろ昼だけど、どうする?もう飯にするか?それとも・・・」
「着くまで我慢するっ」
「私もそうしますっ」
「俺も、そのつもりだ」
やっぱり食へのこだわりが強いと、こうなるよな。
† † † †
「よーしとうちゃーく!」
「とーちゃーくっ」
「とうちゃくですっ!」
約三週間の長旅を経て、ようやく着いたノーア。
そのうれしさに感動し、三人してはしゃいでいるわけだ。
よし、着いたって事は・・・!
「そんじゃさっそく・・・」
「飯行くぞー!」
「いくぞーっ!」
「おー!」
当然、飯を食うよな!
「それじゃ、どこいこっか」
馬車を馬小屋に預け、今は三人でふらふらと歩いている。
魚と言っても色んな食べ方がある。
刺身、焼き、天ぷら、漬け、握り、丼。
まあ、すぐ旅立つわけでも無い。焦らずともそのうち全部食べれるだろう。
「海鮮丼食べたい」
聞くと、ミルが率先して提案する。
「あ、私もそれが食べたかったですっ」
その提案に雪月も乗った。
二人の意見が同じになったな。
「じゃあ、海鮮丼が売りの店を探そっか」
「うんっ」
やっぱり、笑顔のミルは可愛いな。
土地勘もない俺らじゃそこら辺を彷徨っても良い店は見つからないだろう。
そんじゃ、ここはとりあえず道行く人に聞いてみよう。
「あのー、すいません」
「あ、私、ですか?」
「はい。今俺達、美味しい海鮮丼が食える店を探してるんですけど、おすすめの店ってありませんか?」
なんとなく立ち止まっていた女性に声を掛け、問うてみる。
「ええと、皆さんはここに来るのは初めてですか?」
「ええ、まあ」
「そ、それじゃまだ何処に寝泊まりするか決まってないとか!?」
「え、あ、はい」
初めてだと答えた瞬間、その女性は突然顔を近づけ鼻息荒く続いての質問をしてきた事に、俺は大きく戸惑った。
「な、ならうちに来てください!もてなしますよ!」
「えっ、ちょっ」
手を掴み、逃がさないぞと言わんばかりに強く握る女性。
「・・・」
服がくいっと引っ張られ、振り返るとミルが俺の服をつまんでいた。
「ん?どうした?」
俺は今それどころでは無いほどに凄い剣幕で迫られているんだが?
「・・・シュウのたらし」
「え、えええ・・・」
圧倒的に無罪だと主張したいんですが・・・。
「さ、行きましょ!」
「さ、さっきはすみません・・・あはは」
結局女性のなすがままになり、連れてこられたのは木造の、そこそこ良い感じの宿屋だった。
「もういいですけど・・・なんでここに?」
「ここは、私のおうち兼お店なんですよっ」
そういい薄い胸を張る彼女。
「は、はぁ」
とるべき反応が見当たらず、少し困っていると。
「あんたのお店じゃ無くて私のお店だよ。・・・うちの子が迷惑掛けたね、いらっしゃい」
お店の裏の方からふくよかな、彼女の母親だろう女性がこちらに近づき挨拶がてら謝る。
「いえそんな」
驚いたのは事実だけど、別に迷惑を掛けられたわけじゃないしな。
「シュウ、おなかすいた」
「私もぺこぺこです」
と、隣で腹を鳴らす二人はもう限界と言ったところか。
「すいません、とりあえずなんか食べたいんですけど」
「あ、そうでしたっ。お母さん、皆さんは美味しい海鮮丼が食べたいって店を探してたんだよー」
「そういうことね。分かったわ。少し待っててね、すぐ作るから」
微笑み、また裏へ入っていった母親。
「いえ、お構いなく」
「あ、自己紹介わすれてたっ。私、カナって言います。ここでお母さんの手伝いしてるんですよ」
窓に近い席に案内された俺達は、水を飲みながら彼女、カナと会話していた。
「俺はシュウ、こっちの二人はミルと雪月って名前ですね」
「そうなんですね。えっとシュウさん、失礼ですけど、おいくつですか?」
「えっと、今は18歳だった気がする・・・」
「そうなんですか!私も18です!同い年ですね!」
言い、微笑むカナ。
「そっか、なら二人とも敬語はやめるべきかな?」
「あ、そうです・・・そう、だね、うん。よろしくシュウ」
「おう、よろしくなカナ」
差し出された手を握り、握手する。
二人で微笑みあって、若干打ち解けた。
が。
「・・・シュウ、バカ」
「あるじさまは節操なしのへんたいさんですね」
・・・いつも通り、あらぬ誤解を生む俺だった。
「な、なんでそうなる・・・」
「ふふふっ」
それを見て面白そうに笑うカナ。
「笑い事じゃねえ・・・」
ミルの冷たい視線に俺はガルド・バース・ドラゴンなんか目じゃない程怯えていた。




