俺、見上げます。
「んじゃ、そろそろ飯にするか」
「うん」
町を旅立ってから早2時間。
いろいろなファントムに出くわしたりしたが、種類が変わっている訳でも無く、若干町の周りに潜んでいる奴らよりかは強いかな?程度の為ここまでは順調だった。
馬を止め、荷車に積んである大量のパンの中から適当なのを一つ選び、食べる。
「・・・まあまあ美味いな」
食感を無理矢理擬音語にするなら、さふっさふっみたいな感じだろうか。
パンだから当然口の中の水分を奪っていく。
そこで、一応町で買い溜めておいた牛乳を一瓶取り出し、一緒に飲む。
うん、なかなかいけるかも知れない。
けど、牛乳は早めに全部飲んどこう。変に腐ってもいやだしな。
「どうだ?美味いか?」
「うん」
「はい」
ミルと雪月も、俺と同じくまあまあ美味いな程度なのだろう。
別にご馳走を食べてるわけでも無い。これが普通だろう。
でも流石に一ヶ月もパンのみだと飽きるだろうから、砂糖や塩漬け肉や乾燥肉なども買っておいた。
試しに砂糖をちりばめてみると、これまたまあまあ美味かった。
心地良い昼の風が荷車を吹き抜け、この地を照らす太陽が優しく包み込むように体を温める。
「眠くなってきたな・・・」
「うん・・・」
「・・・くぅ・・・くぅ・・・」
「寝るな雪月・・・。俺まで眠くなる」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「もうだめ・・・」
「暑い、ミル暑い。もたれかかるな」
「すぅ・・・すぅ・・・」
「ずるい・・・。俺も寝たい・・・。でも俺が寝たら馬が進まない・・・」
昼飯をたべたばかりだからだろう。このけだるさに拍車がかかっていく。
そこら辺を見渡してもファントムがおそってくる気配は一切無い。
左に見えるオークは地面に仰向けで寝そべりひなたぼっこをしている。
ガルドウルフの親子も気持ちよさそうに目を閉じている。
雪月は荷車の隅で小さく丸まっている。
「・・・ん・・・。はぁ・・・んっ・・・ん」
俺に寄りかかって寝ているミルの小さな息遣いが鼓膜を伝う。
「・・・っ」
その無防備な横顔は、なんというか、・・・すごく可愛かった。
こんな日はゆっくりまったり、何もせずに過ごしたいものだ。
しかし、食料の問題だったりでずっと野宿では居られない。
急いでいるわけでは無いが、一刻でも早く次の町まで行って寝床くらいは確保したい。
俺は寄りかかるミルの頭を膝に置き、手綱を引いた。
† † † †
日もだいぶ傾き、あと30分もすれば夜の帳も落ちる頃。
「ん・・・んぁ、ん」
「おはよう、ミル」
「・・・おはよ・・・シュウ・・・」
「ミル」
「・・・ん」
「よだれ」
ようやく目を覚ましたミル。
少し顔を赤くしながらよだれを拭く。
「・・・えっ」
「どうした?」
「な、何でもないっ」
いいながら俺の膝の上から頭を上げる。
「ど・・・どのくらい」
「ん?」
「どのくらい、寝てた」
更に顔を染める。
「うーん、5時間くらいじゃないか?」
「ごっごじかんもっ」
「・・・?」
確認した言葉につられるようにどんどんと赤くなっていくミルだが、俺には何故そうなっているのか全く理解できなかった。
それからミルもしっかりと目が覚めたのだろう。
月明かりのみが俺達を照らす中、ゆっくりと進み続ける荷馬の操縦席に肩を並べる。
「だいぶ・・・遠くまで来たのかな」
「分かんないけど、まだまだ道は長そう」
「そうだな」
後ろを振り返り来た道を見るが、目に映るのはたくさんの荷物と未だ寝息を立てる雪月だけだった。
「ミル、寒くないか?」
「ううん。大丈夫」
「・・・そっか」
昼が暖かかったとしても、夜は冷えるものだなと、俺は身をもって痛感していた。
どれだけ目を凝らしても、うっすらと遠くに山の輪郭が見えるだけ。
でも、そこから少し上に目をそらせば雲一つない満天の星空。
ただ静かに、二人でそれを眺めていた。
「星、綺麗だね」
「・・・ああ」
「ねえシュウ」
「なんだ?」
「寝て、いいよ?」
・・・確かに朝は早かったし、今もだいぶ眠い。
けど、今は。
「いや、いいよ」
「・・・そう」
今は、まだミルと話していたかった。
でも、そうだな。
「もし、俺が『もう無理!』ってなったら寝るかも」
「・・・うん」
その時は。
「そうなったら、ミルの膝、借りるかもしんないけど、いい?」
さっきまでのお返しとばかりに聞くと、ミルはぼっと顔を熱くしたが、すぐに母性のある表情を浮かべて
「・・・10ぷんだけだよ」
と、微笑んだ。




