俺、旅立ちます。
とりあえず手当たり次第パン屋でも当たってみるか。
助かることに、今見えている景色には3軒のパン屋が確認できた。
「近いところから順に見てみるか」
俺は左側に見える、菓子パンが売りのお店に足を運んだ。
「いらっしゃい」
入るとすぐに、威勢の良い声が俺を出迎えた。
まずはどんなものがあるのかを一通り見て回ってみる。
やはり菓子パンがメインなだけあって、ラインナップも変わり種なものが多い。
ツナマヨパン、バターコーンパン、ベーコンエッグパン・・・。お、このベーコンエッグパン、俺のよく作るやつと似てるな。
卵蒸しパン、クリームチーズパン、あんパン、ハニーパン。
どれも美味しそうだ。
でも、俺が今探しているのは美味しいパンじゃなくて、日持ちのするパンだ。
素人目ではどれが長持ちして、どれがすぐ駄目になるかなんて分からない。
ここは素直に聞いてみよう。
「すみませーん」
「はーい」
「俺、今から結構長い旅に出るんだけど、日持ちするパンってどれですか」
「うーん、日持ちするパンねえ・・・」
聞いたら、おばさんは悩み出した。
「パンは水の含有量が多いから、持っても4、5日かしら」
聞いた俺は少し驚いていた。
そうだったのか、パンは勝手に長持ちするものだと思ってたけどそうでも無いのか。
「バゲットとか、パネトーネを使ったものなら結構長持ちするとは思うけど」
「その、バゲットとかはどのくらい持つんだ?」
「うーん・・・。湿度や季節によるけど、今の時期だと一ヶ月かそこらかしらねぇ」
「そっか、それだけ持てば充分だよ。ある分だけ全部くれ」
長いと言っても、一ヶ月歩き続ける程の道のりでは無い。せいぜい2、3週間だ。
「ちょっと待ってな、すぐ持ってくるよ」
「ありがとう」
そう言っておばさんは裏へ入っていった。
「お待たせ」
そう微笑んだおばさんは両手いっぱいに抱えたパンを持ってこちらへと向かってくる。
「おお、思ったよりも多かった」
「ふふ。食べてみるとそうでも無いわよ」
そう言って縮こまれば体を隠せそうな程の量のパンをゆっくりとカウンターに乗せる。
「俺達は三人で行動するんだが、これで何日分くらいだ?」
「そうねえ・・・。えと、お仲間さんはみんな男の子?」
「いや、俺以外女だな」
言うと、おばさんは「まあ」といって驚いた顔をした後、にやにやと口角を上げながら
「それなら一週間は持つわ。・・・でも、夜にあまり激しくしちゃうと体力消費しちゃうから、気をつけてね」
「そんな関係じゃないですから!」
「あらあら」
うふふ、と口を軽く押さえながら笑うおばさんにジト目を送る。
「冗談よう。・・・あら、お客様が来ちゃったわ。それじゃ、お会計しましょうか」
「また来てね」
お金を払い、パンを持って立ち去る際におばさんがこちらに向かって小さく手を振っていた。
あいにく両手が塞がっていたため、軽く会釈してその場を去った。
それにしても、これだけの量があって一週間分とは、人間ってのは見た目よりよっぽど飯を食うんだな。
こんなんじゃ次の店に行こうにも買い物どころか中に入ることも出来ないな。
一旦置きに戻るか。
幸い店と馬車の位置が近い。全ての店を往復してもたいした時間にはならないだろう。
俺はミル達の待つ馬車へ向かった。
「あるじさま、はやかったですね」
戻ると、雪月はまだ馬の事を撫でていて、ミルは荷車の中で杖の手入れをしていた。
「荷物を置きに来ただけだ。すぐ戻る」
抱えていたパンを荷車に入れながら言う。
「そうなんですか。私、お手伝いします」
雪月は撫でる手を止め、そう提案する。
「いや、いいよ。そんな時間がかかるわけでも無いし、それに結構重たい」
はは、と苦笑いしながら手をひらひらと振って、もう一つのパン屋に向かう。
「私がお手伝いしたいんです。だから行きます」
雪月は小走りでこちらへと走ってくる。
隣に並んだところで俺の腕にしがみつき、俺の顔を見上げると微笑んだ。
なんだか妹が出来たみたいで、ちょっぴり新鮮な気持ちだった。
「そっか。ならお願いしようかな」
「はいっ」
† † † †
「あるじさま、この髪飾り可愛いです」
「お、そうだな」
「どうですか、似合ってますか?」
「うん、可愛いんじゃないか?」
「えへへ」
・・・分かっている。
充分に分かっているから突っ込むな。
「雪月?そろそろパン屋に向か」
「あるじさま、この香水すっごく良い匂いです」
俺達はパンを買いに行ってた筈だったんだが、何故か雑貨店を歩き回っていた。
いや、最初はしっかりパンを買って荷車に置いてきたんだが、雪月が途中で見つけた綺麗な貝殻を売っていた店に目を奪われ、こんなことになっていた。
「ほら、あるじさまも」
そう言って鼻の前に香水のサンプルを差し出す雪月。
「うーん・・・。鼻を抜けるこの爽やかな柑橘系の香り。どこか落ち着く、森林の中を思わせるような落ち着いた雰囲気、悪くない」
「ですよねっ」
「・・・うん。いいな。これ、雪月にプレゼントするよ」
「え、そんなつもりじゃなくて」
「いいよ。それに、これは俺も気に入ったから、是非つけてくれ」
微笑みながら言うと、雪月はほんのり顔を赤く染め、照れたのか少し俯きながら
「・・・はい」
と言った。
「そろそろパン屋に向かうぞ雪月」
「はいっ」
数分経ち、流石にこれ以上ミルを待たせる訳にもいかないと思い、切り出す。
さっき香水を買ってあげてからずっと上機嫌な雪月は、俺の腕にもっと体を密着させ、歩いていた。
「・・・なんだか、デートみたい、ですね」
なんてロマンチックな事を言うのは、俺のユニークウエポン、雪月花様だった。
最初のうちは、確かに機械っぽい一面もあったが、今となっては完全に人間だ。人間の少女だ。
意思疎通が出来て、百式解放とか言うそこら辺のファントムブレイカーの数十倍強い能力を持った美少女だ。
「まあ・・・見方によっては、そう見えるかもな」
雪月は自分の胸の谷間に俺の腕を挟む様な形をとってみせる。
雪月は体がとても小さいが、胸の感触が無いか、と問われれば多少はある、という回答になる。
その為、ほんの少し恥ずかしかったりする。
「ふへへ」
うれしそうに笑う雪月の横顔は、どこからどう見てもか弱そうな普通の女の子だった。
「・・・遅すぎ」
その後しっかりとパンを買い、ミルの元へ戻ると、案の定お冠だった。
「わ、悪い、少し迷ってな」
「・・・一本しか道ないし」
「うっ」
「同じ香水の匂いするし」
「うっ」
「雪月、凄い上機嫌だし」
「うっ」
・・・ミルには嘘はつけない。
「ごめん、少し道草食った。でも、これ」
「・・・ネックレス?」
「そ。ミルに似合うかな、とか思って買ってきた」
手渡されたミルは少し硬直して、やがて。
「ありがとっ。シュウ」
笑顔で受け取ってくれた。
やっぱり、ミルは笑顔の時の方がかわいいな。
「よし。それじゃ待たせた。出発するか!」
次こそ本当の出発になる。




