俺、購入します。
「・・・やっぱあれ出してもらって良いですか」
気がついたら踵を返し、そんな事を口走っていた。
「で、ですからお客様ぁ?あちらの商品はやめておいたほうがい」
「いいから出してください」
店員の否定を否定し遮る。
「・・・わ、わかりました~、ん少々おまちください」
さすがに俺のいやーな気配を感じたのか、うざ絡みをやめ言うことを聞いた。
はじめっからそうしてくれないかな。
ショーケースをカチャカチャいじること数十秒。
ようやく開いた。
何重にもロックがあるらしく、店員が「あるぇ?・・・んっあるるるぇ?」って感じできもかった。
「んこちらになりますねー」
それは見て分かるし俺が出して欲しいと言ったし今からその服になるわけじゃ無いしもうなってるし。
と店員の一挙手一投足にイライラし初めて来た俺。我慢我慢。
「・・・ども」
手渡されたそのマントを広げて見てみる。
・・・やっぱり何かしら力を感じるような。
「これ、何ですか」
正直視覚情報では黒いボロいマント、くらいにしか何も分からない。しかし、何か隠されているような気がする。アテは無いがそんな気がするんだから、としか説明のしようが無い。
・・・もし”マントですぅ~”とかほざいたらぶん殴ってやろう。よし、そうしよう。
「ん~、んっマントですぅ~」
ジャッジメント。ギルティ。極刑だこの野郎。
「・・・けど、ここから先の話はオフレコでお願いしますね」
と、殴る気満々の握り拳をしたところで、先程とは打って変わって”店員と客”ではなく”人と人”のトーンになる。
そのあまりのギャップに俺は唖然とせざるを得なかった。
「実はこれ、呪われた装備だとかなんとかって噂があるんです」
ぐっと顔を近づけ、返事を返す間もなく続ける。
「詳しい事は私もよく分かってないんですけど、とにかく曰く付きであることは間違いなさそうですよ」
そう言い切る店員の目は真っ直ぐだった。
真剣に伝えようとしているのだろう。接客もそっちの方が印象良いだろうに。
「そう・・・なんですか。具体的にどういった災いが身に降りかかるとかってのは?」
「なんでも、身に付けた途端に不自然な布の翻し方をするそうで。そして、気のせいだろうと油断をした隙にマントの首付近が急に締まり、絞殺してくるらしいです。まあ、根も葉もない噂ではあるんですが」
ははは、と頬をかきながら苦笑いする店員。
「奇妙だな・・・。それで、値段はどれくらいなんですか」
「得体が知れず、悪い噂のある装備ですよ?せいぜい500ゴールドで売れれば良い方ですよ」
いいながら肩を竦める。
ん、だとすればこんな装備とっとと売り払いたい所だろう。
客にとってはデメリットしかない装備。それに対し俺は食いついたわけだが、買わせようとするどころかやめるように促した。
俺が損しないように?
・・・もしそうなのだとしたら、できた人間だな。
顔色を伺ってもそんな毛色一つ見せない。
なんにせよ、助言してくれた事に変わりは無い。
「そうですか。それじゃ、これ買います」
「えー、ええ!?」
散々この装備は駄目だーと説明したにもかかわらず、購入の意を見せる俺にかなり動揺している様だった。
「え、えと、話聞いてました?これは、悪い噂もあれば、人を殺すかも知れないって言う、あなたに降りかかる災いだってあるんですよ?」
店員は必死で購入するのを止めている。
「分かってますよ」
「なら!」
確かに危ない物で、身に害を及ぼす可能性があるかも知れない。
でも
「なんか、面白そうだし」
にひっと笑ってやる。
「ええ・・・」
その回答に店員は呆れた様な目をしていたが、やがてぷふっと吹き出し
「そう言うなら、止めません。お買い上げ、ありがとうございます」
そういって微笑んだ。
† † † †
「シュウ、それで良かったの?」
帰り道、ミルがこの訳の分からないマントを指し、問う。
「ん、ああ、良いんだよ。どーせ、この後おっちゃんの店行っていろいろ調べてもらうし」
汚くボロい。ただ、それだけでなく、どことなく年季が入った物のようにも感じる。
もしかしたらおっちゃんが何か知ってるかも知れないしな。
「つーわけで、これからおっちゃんの店行くけど、いい?」
朝からふらついて、気付いたらもう日も傾いている。これ以上付き合わせるのも可哀想な気がした。
「うん」
「はい」
簡潔な返事で済まされた回答だったが、二人はいやな顔一つせず、むしろ優しい顔をしていた。
「先に家に帰ってても良いんだぞ?」
「ううん、大丈夫」
「そっか」
「あ、そうだ。はい、これ」
「これ、何ですか?」
「ペンダント」