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俺、緊張します。

「うーん、分からないねえ」

おっちゃんの店に着き、例のマントを見せるも、特にこれと言った情報を持ち合わせている訳では無さそうだった。

「そっか、残念だな・・・。でも、さんきゅーなおっさん。また来るよ」

てのひらを上げ、去りながらその手を左右に振る。

ミルは淡々と、雪月は一礼してから店に踵を返した。

「みみ、ミルちゃん!」

店を出ようとしたところでおっちゃんがミルを呼び止める。

妙に鼻息を荒くして、町中で芸能人とすれ違った一般人の様なテンパり方をしている。

「ん・・・?」

大声で呼び止められたミルは一瞬肩をビクつかせ、それから振り返り頭にはてなを浮かべていた。

「そそ、その、今度あいてる日とかあったら、な、何かおごるし!だ、だだから、ど、どど、どっか遊びにい、いかな~い!?」

そうだった。このじじいミルに惚れてたんだったな。

だが誘うのが下手すぎる。なんだその「いかな~い!?」って。優しく言おうとしすぎて寧ろドぎついオカマみたいになってるぞ。振られて「どんだけ~!」とか言うなよ絶対。


そのおっちゃんの飯の誘いにミルはなんと答えるんだろうか。

言われたミル本人も面食らった様な顔をしている。

しかし、徐々に普段の無表情なミルに戻っていき、こう告げた。


「私、シュウと違う町に引っ越すの」


まあ、嘘じゃ無いし本当に近々次の町に移動はするが・・・。

「あ・・・。あ、そうなんだ・・・ね。あ、あははあ。じゃ、じゃあ仕方ないね、へ、へへぇ。あ、ああ。あぁ・・・。あ。ああ。あ」

好きな相手が違う男と、それも遠くへ行ってしまうという事実を聞いてしまったら立ち直れなくなるだろうに。

ほら。ずっと「あ」しか言ってないくらい脳がショートしてるじゃないか。そのうち全身真っ黒で顔だけ白い仮面付けて「あ・・・あ」って言いながら手からちっちゃい金出してくるぞ。

まあそうなればミルのことなんて忘れて異世界に迷い込んだ少女を追い求めるようになるさ。


完全に呆けてしまったおっちゃんがいたたまれなくなったのか、俺は足早にその場を後にした。



†    †    †    †



「それじゃ、先に戻っててくれ」

「どうしたの?」

「いや、大したことじゃ無いよ」

おっちゃんの店を出てすぐ、俺はミルと雪月に家へ帰るようお願いした。

「ん、分かった」

さすがはミル。内容を伝えずとも分かってくれるありがたさったらない。

「ありがと。すぐ戻るから適当に待っててくれ」

言いながら目的地に足を進める。

ミルと雪月も家へ向かっていった。


時は黄昏。良い具合に紅を落とした夕空は、山の向こうに潜む陽によって創り出された芸術作品のようにどこか深い闇を漂わせる。

町を照らす街灯や店の灯りで刻一刻と夜を感じさせる。

そんな中、朝からの懸案事項。自らの黒歴史を作った忌々しいあの場所へと向かう。


そう。クリーニング店である。


「明かりは付いてるな・・・」

ゴクリと唾を飲み、高鳴る鼓動を制御する。

初めて告白されたが故にあの時はだいぶ焦っていたが、今は大丈夫。

俺は有耶無耶にせずちゃんと断った。俺が何かを気にする必要はない・・・はず。

そう。布団を取りに来ただけの客とそれを渡すだけの店員。そうだよ、相手だって仕事中なんだからプライベートな会話なんてしなくて良い。

ただ布団を貰って、お金払って、帰る。それだけのことじゃないか。

よし行ける。いけるぞ。いけ!いけ!


・・・行けないへたれがここにはいた。

いや流石に緊張するって言うか気まずいって言うか。

やっぱり一対一だと怖いよな。かといってミルを連れてきたら「なに女たらししてんだこの野郎」って言われそうだからな(言われない)。


いや、だとしても、俺は何にもやましいことはしていないし、相手ももしかしたら俺に振られたことで愛が冷めて、次の恋へ行っているかも知れない。

それなら、やっぱり気にせずただ取りに行けば良いだけだ。

よし、入ろう。

そう決めて、”向かいの店の路地”からクリーニング店へ向かっていった。



ささっと近づき、ガラス張りの戸をガラッと開け、一言。


「た、頼もーう」


・・・。


おいあほか!何言ってんだ俺は!緊張しすぎて普段使わないしゃべり方になってるじゃねえか!

「は、はーい」

奥にいるであろうお姉さんも今きっと「やべえ奴が来たな」って思っただろうな。

タッタッタっと小走りでこちらへ向かっている足音が聞こえ、心臓が更に跳ねる。

「すみません、お待たせしまし・・・た・・・」

俺の顔を見た途端、ボッと顔を真っ赤にし、口をつぐんで俯いてしまう彼女。

「や、やぁ。布団を、取りに、来たよ」

・・・。

ばっか俺ばっか俺!頭空っぽだからってこんな片言な挨拶ねえだろが!

「お、おおお待ち・・・して・・・した・・・」

あんたもあんたで噛み噛みだなおい!?

「じゃ、じゃあもらえる、かな」

「うぃ、うぃす」

・・・もう突っ込まねえ。お姉さんももう頭回ってないみたいだしお互い様だな。

後で冷静になって、二人して羞恥に悶えようぜ。

「こ、これ、です、ねー」

「お、おう、ありやとー、ここに、代金おいとくぜ」

「うぃ、うぃす」

そのうぃすってのなんなんだ。新手の挨拶か何かなのか。

「そ、それじゃ」

「は、はい、ありゃした・・・」


ガラガラガラ。


・・・あー。死にたい。

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