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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第七章 米国編
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第132話 陰謀と慟哭

 検査最終日、ロビーで迎えを待っていると緊張した面持ちで二人がやって来る。どうしたのか尋ねると、体力測定の予定だったが、脳波検査に変わったという。

 それってあの中年太りの仕業なのかと訊ねると「もしかしたらHIVウイルスの件がバレたかもしれない」とヨハンソンが顔色が青ざめている。

 検査中に拘束しようとしているのかもしれないが全力で守ると二人は言う。

 他に協力者はいるのか尋ねると、誰が敵で誰が味方かわからないと言われる。

 

 アサガオさんに相談しようかと思ったが、昨夜ウチヤマ先生の奥さんをいたく気に入った彼女はアズマ教授と一緒にアーリントンの家に行ってしまっていた。

「まあ、なんとかなるだろう。いざとなったら全部壊して逃げるよ」と二人に言って病院へ向かう。移動中も襲撃を警戒してピリピリした空気が車内に張りつめていた。


 病院に着くと、MRIはやらず脳波検査だけ行うことになった。怪しすぎるとは思うが、もしかしたら取り越し苦労かもしれないので従うことにした。

 ベッドに寝て電極を付けられ検査がスタートする。傍らにはいつものようにアドラさんがいて、目を開けたり閉じたりする指示を通訳してくれている。

 いつもより計測時間が長い気がするけれど、緊張しているせいかもしれない。

 最後に睡眠時の波形を計測するために寝るよう言われる。こんな緊迫した状況で眠れるわけがない。とはいえ目を瞑ったまま動かず眠る努力はしてみる。すると、ほのかに甘い香りが漂ってきた。そのまましばらくじっとしているとふわーっとして意識が薄れていく感覚があった。


―――――


 遠くで焚火の薪がパチパチと燃えるような音が聞こえる。

 目は閉じたままだけれど眩しいくらい明るい。


 次第に燃える音がバチバチと大きくなり、真っ白に眩しかった光が明滅し始める。


 やがてバチバチする音に包まれ、目の前には勢いよく火花が飛んでいた。

 バチバチする音に混じって「起きて!起きて!」という声が聞こえる。

 この声は…初めて聞く声… サヨさん? どうして!?

 ようやく意識を取り戻したとき、検査室の光景が目に飛び込んでくる。

 バチバチ音と火花とサヨさんの叫び声は続いたまま。

 

 ヨハンソンが看護師と取っ組み合っている。アドラさんは床に倒れている。

 おれは両手と両足を結束バンドで縛られていた。


 バチバチ音に混じって「逃げて!逃げて!」とサヨさんの声が聞こえる。

 だめだ!それ以上おれの頭の中に入ったらあなたが消滅してしまう!

 早く動かないと!そう思って結束バンドを解きにかかるが、やり方がわからない。

 サヨさんは命を削りながら逃げろと言い続けている。

 もうやめてくれ!意識はもどったし、逃げようとしてるから!


 ヨハンソンも手一杯のようなので、身体を回転させて床に寝ているアドラさんの上に落ちる。「うっ」と呻ぎ声は聞こえたが意識は戻ってないみたいだ。


 そのまま床を転げまわってベッドを挟んでやり合ってるヨハンソンたちと反対側へ出る。検査室の中に結束バンドを千切れるものがないか探す。

 鋏のようなものは見当たらないのでロック部分の爪に挿すものを探す。

 マイナスドライバーが一番いいけどそんなものはなさそうだ。


 アドラさんの傍らに倒れている検査員の胸にボールペンがあるのが見えた。

 床を這ってそいつを取り、口に咥えて結束バンドのツメのところへ挿す。

 ちょっと緩んだのを確認して慎重に両手を広げていくが、ボールペンが外れてちょっとしか緩んでいない。もう一度ボールペンを咥えてバンドを外しにかかる。


 何度かやってようやく片手が抜けそうになったところでヨハンソンが来てくれた。なんとか襲撃者を倒したようだった。

 息を切らしながら無言で手の結束バンドを外してくれた。手が自由になったので足は自分でやれると思い「アドラさんを頼む!」と言うと、ヨハンソンはアドラさんの頬を叩きながら「Wake UP!」と何度も叫んでいた。


 足も自由になり立ち上がると、再びバチバチと激しい音が聞こえ「来る!来る!」とサヨさんの声が聞こえる。彼女の命はあとどれくらいだ、早くこの状況を脱しないと彼女が消えてしまう。


 物陰から覗くと廊下の向こうから男が2人こっちに来るのが見えた。

 相手は是が非でも捕獲に来ていることを知って、相当やばい状況であることを理解する。とはいえ入口は一つしかないので逃げ場がない。ここで迎え討つしかない。


「ヨハンソン!男が二人来る!」


 彼にそう伝えると、彼は検査用の照明スタンドを持ってドアの陰に隠れる。

 おれはアドラさんに呼びかけ肩を揺する。頼むよ軍曹起きてくれ!


「アドラさん、いま襲われてる。わかる?起きれる?」


 彼女を抱きかかえて呼びかけると呻き声を上げるがまだ意識が戻らない。


 男たちが部屋に侵入してくる。

 ドアの陰から躍り出たヨハンソンが、照明スタンドをフルスイングして一人の男の顔面にヒットさせる。ガシャンと派手な音を立てて男が後ろに吹き飛んだ。

 

 次の瞬間、もう一人の男が腰から拳銃を抜いてヨハンソンに向ける。


 目の前が一瞬真っ白になり、バチバチ音の集合が轟音になって鳴り響き「イヤーッ」とサヨさんの声が聞こえた。


 何百分か何万分の一秒かの刹那、男が6発の弾丸を発砲した。

 至近距離からヨハンソンの胸に4発弾丸が撃ち込まれるのを見た。

 残り2発がこちらに流れてくるのが見えた。

 弾丸の軌道が見え、めちゃくちゃ重い身体をよじって腕で弾丸を受け止めた。

 時間が戻る前、サヨさんの喪失を感じ取った。


 時間が戻る。

 男はこちらに近づいてきて、おれの腕の中にいるアドラさんの眉間を撃ち抜いた。


「うううううわあああああああああああああああああ!!!!」


 怒りと悲しみが極限に達して狂ったように叫び声を上げ、気を失った。

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