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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第七章 米国編
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第131話 乾杯と至福

 ヨハンソンの不意打ちに対応して事なきを得ると、改めて「これは私個人からの感謝と、検査協力へのお礼です」と花束を渡された。みんな拍手してくれている。

 実感がなくて「あ、ありがとう」と困惑しながら席に着く。花束の処遇をどうしようかと抱えたままでいるとアドラさんが店員を呼んでクロークに預けてもらえた。


 シャンパンが全員に行き渡るとヨハンソンが立ち上がりスピーチを始める。


「私は現代の医療では治すことのできない病を患っていました。そのことを彼に打ち明けたとき彼はこう言いました。どうすれば無効化できるかと。結果如何に関わらず、その瞬間に彼は私の英雄になりました。そして今日、朗報がもたらされ世界の英雄に彼はなりました。彼の安全を考慮すれば公にはできませんが、ここにお集まりの皆さんで彼の勇気を讃えてください。

 彼のこれからが幸せであることを願って。乾杯!」


 みんなで乾杯した。なんか褒められたけど、おれじゃなくてヨハンソンの病気が治ったことを祝うべきじゃないのか?そう思っていると「あなたも思っていることを言いなさい」とアサガオさんにスピーチをするよう促される。そういうの苦手なんだけど、このままにはしたくなかったから立ち上がった。


「あの、いますごく褒められたんですけど、彼の病気が治ったことを祝ってあげてください。おれ医学とか難しいことはわからないから、やり方は彼に教えてもらったんです。たまたまそういうことができるから、彼の指示に従って操作をしただけなんです。だから病気と闘ったのは彼自身だし、こんなわけのわからないおっさんを信じて立ち向かった彼を讃えるべきだと思います。彼の人生がずっと幸せであることを願っています」


 和やかだったテーブルが静まり返ってしまった。困惑した空気に包まれ、どうすんのこれ?と誰もが思っているとき、アサガオさんが口を開いた。


「せっかく褒めてあげたのに『いらない』なんて言うからみんな困っちゃうわよねえ。彼もアメリカの彼も、二人で力を合わせてがんばったってことで、きょうは改めて二人を褒めて労ってあげましょう。いいわね、二人とも?」


「はい」「Yes mam」彼女にそう言われたら首は縦にしか振れない。


「はい。じゃあ、お料理が早く食べてくれって言ってるから食べましょう!」


 アサガオさんの号令でみんな正気に戻って料理に手を付け始めた。

 みんなニコニコしてようやくお祝いらしい雰囲気になった。ヨハンソンとウチヤマ先生の奥さんがコソコソ小声で話をしている。聞き取れないがチラチラとこちらを見ている。あいつが良からぬことを吹き込んでいないといいのだけど。


 さっきから教授がメモ帳になにか書き留めているのが気になっていたので「なにを書いているんですか?」と訊ねると「いやあ、彼女が好きそうな味だと思ってレシピを」と照れている。「まじですか。食べたらわかるんですか?」と驚いて訊くと「完全ではないですが、まあだいたいは」と平気な顔で言っている。まじすげえ。


「そうよ。タダヒトさんの特殊能力なんだから。しかも彼、あの時食べたこんな感じの味って伝えると、だいたいその通りに作ってくれるのよ?すごいでしょ!ふふん」


 ぜんぜん知らなかった。甲斐甲斐しく世話をされるのが心地いいだけじゃなくて、ちゃんと惚れ込む要素があったんだ。そりゃそうだよ1500年最後の男だもの。

 アサガオさんに全力で褒められた教授は全力で照れている。


 視線を照れるおじさんの奥へ向けると、ハナザワ室長とウチヤマ先生が仲良さそうに喋っている。知らない間柄ではないと思うがそれにしても砕けた感じに見える。


「ウチヤマ先生はハナザワ室長と前からのお知り合いなんですか?」


「大学で同期入学だったんですよ。僕は一年休学したから学年は一つズレましたけど」


「ウチヤマが助教の時に教え子と付き合ってるって噂を聞いたときは、なにかの間違いじゃないのかと思いましたよ。真面目でそんなイメージなかったですから」


「大学生なら成人してるからいいんじゃないですか?それでも講師と生徒って社内恋愛よりもやりにくそうですね。どうやってそんなふうになったんですか?」


 すると、奥さんがおずおずと手を挙げて「すみません、わたしです。わたしが告白しました」と恥ずかしそうに答えてくれた。「あ、そうだったんですか」とひとまず流した。奥さんの顔、めちゃくちゃ顔が赤かったから。


「わたしすぐムキになるんですけど、カオルさんは昔から穏やかで。ほら、量子力学って意味わかんないじゃないですか。それでイーッてなっているところを根気よく教えてもらって。ああ、この人好きだなーって…あああ、す、すみません、わたしは何を…」


 彼女は勝手に惚気始めて勝手に動揺している。隣で先生も真っ赤になっている。


 そんな頃、メインディッシュの肉が運ばれてくる。なんかソースの掛け方が現代アートみたいな感じのやつ。しかしこれがまたすげえ旨い。牛の尻に齧りついているぐらいウシ!って感じの旨味がすごい。教授が黒毛和牛だと教えてくれた。和牛凄い。


 ふと顔を上げるとアドラさんがすごく楽しそうにしているのが目に入る。

 小声でアサガオさんに「彼女の感情になにかしたんですか?」と訊ねると「ちょっと渋滞してたみたいだから交通整理をしただけよ」とのこと。気持ちや心というと心臓のあたりにあるような気がして脳の中にあると言われても違和感がある。でも事実そうなんだなと彼女を見て思う。


「ドウカシマシタカ?」とおれの視線に気付いて彼女が言う。「すごく楽しそうで見違えたなと思って」と返すと「マムノ、オカゲ」とアサガオさんを見て微笑んだ。

「あなたは恋をすればもっと人生が豊かになるわよ。彼はどう?フラれたばかりだから狙い目よ?ふふふ」と隣からおれの肩に手を回して斡旋してくる。

 アドラさんの返事を待たず「私の方が先に唾つけてます!」とヨハンソンが乱入してくる。「あら、じゃあ二人と付き合っちゃいなさいよ、あなた二人同時がいいって言ってたじゃない?」と笑って言うこのおばさん面倒くさい。恋バナが好きすぎる。


 でもなんか、アメリカに来ていまが一番楽しい時間だなと思った。

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