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よろず屋スイートピー  作者: ハク*
プロローグ
4/13

4.ブレスレット

本日、4話目の投稿です。


 今日は事務所の休日である。


 外はしとしと、と初夏の雨が降っていた。


 キャットタワーに乗ったり、降りたりするリオンを横目で眺めながら本を捲る。


 友達の警部から貰ったジャズのレコードが、部屋に落ち着きをもたらしていた。


 チャイムが鳴った。


 ルノアは押し花のしおりを本に挟むと、玄関に向かう。


 休日だと分かって訪問する人物は限られている。


「じゃじゃーん!」


 ヘーゼルである。


 薄茶色のボブカットを揺らして元気いっぱいに入って来た。


 ふ……とルノアは笑って迎え入れる。


「ヘーゼル、よく来たね」


「直接会うのはいつぶりかしら。結局この前リオンの面倒見てた時も、会えなかったし」


「お互い忙しくしてたからね」


「そうね。はい、これ」


 ルノアはヘーゼルからお土産を受け取る。


 お酒のボトルだった。


「ああ、エリオットの所のか」


 ルノアは幼馴染の酒屋さんの名前を出す。


「ええ。この間ちょうど寄ったから買って来たわ」


 そうして、リオンに近づき頭を撫でるヘーゼル。


「リオン〜。相変わらず元気いっぱいね!」


 ルノアはボトルをキッチンにしまってからお茶の準備をする。


 ルノアはブラックコーヒー。ヘーゼルはミルクを入れた紅茶だ。ついでにリオンにもミルクをあげる。


 2人はソファに座ってそれぞれの飲み物を飲む。足元でもリオンが音を立てながらミルクを飲んでいた。


「エリオットが寂しがってたわよ。……気づいてると思うけど……たぶん、あの子ルノアのこと」


 ヘーゼルが若干言いづらそうにした。


 ルノアは困ったように笑う。


「ああ、分かってるさ。でも彼の気持ちには応えられない。知ってるだろ?」


「……そうね。……どうなの最近は?良い女性とは出会えた?」


 ヘーゼルが話を変えて聞く。親友からは気遣いと心配と、少しの興味が伝わってくる。


「まぁ、ヘーゼルのような素敵な女性にはなかなか出会えないさ」


 そこで、あえてからかうルノア。


 かぁ、と頬を赤らめるヘーゼル。


「あなた、まだウチがフッたこと根に持ってるんじゃ無い?」


 と、カップに口をつけながらルノアを睨め付ける。


 ルノアはカラカラと笑う。


「そんなことはないさ。こうやって関係を続けてくれるだけで私は感謝しているよ」


 そうしみじみと呟く。


 ヘーゼルはスカートを手で弄びながら言葉に迷っているようだ。


 彼女の立場からすると、気休めを言うのも躊躇うだろう。


 ルノアが空気を変えようすると、


「にゃお」


 リオンが膝に飛び乗って来た。腹を見せて喉を鳴らす。


 ルノアは微笑みながらお腹を撫でてやった。


「私は十分恵まれているよ。君は私から一時も離れなかった。ローズさんも優しくしてくれた。今はリオンもいる。……ほんと、恵まれている」


 ヘーゼルは、鼻を鳴らして涙を堪える。


 (フッたウチが泣いて良いわけない。ウチが気安く慰めて良いわけない。でもどうしてウチは女性を好きになれないのだろう……たまにそう、思い悩む時がある)


 でもヘーゼルは口が裂けてもそんな事は言えないと思った。それをルノアに言うにはあまりにも失礼だ。


 ルノアは尋ねる。


「それで?今日は何か用事でもあったのかな?」


「あ、そ、そうね!」


 ヘーゼルは気を取り直して用事を思い出す。


 (そうよ。何やってんのウチは!しっかりなさい!)


 ヘーゼルはカバンから小さな箱を取り出す。


「これ。頼まれてた品、サイズ治せたわ。とても複雑で強力な魔法が込められてたからだいぶ時間かかっちゃったけど……」


 ルノアは、目を見開く。


 箱を受け取り蓋を開けた。


 そこには銀色のブレスレットが入っていた。


 それを迷わず左腕につける。


 ピッタリだ。


 褐色の肌に銀色がよく映えた。


「……ありがとう」


 ルノアは花が咲き誇るような微笑みを浮かべた。


 それはあまりにも無邪気で美しい笑みだった。


 ヘーゼルは、しばらく動くことが出来ずにその様子を眺める。


 まるで、神話のワンシーンのようだった。


 いつのまにか、雨が上がっていた。


 昼すぎ。


 2人でパスタを作る。


 レコードの針を外して、テレビをつける。


 ニュースが流れている。


 たっぷりとソースを絡めたパスタを食べながらテレビを眺める。


「そういえば、拘束されるって仕事は終わったのね」


「ああ、無事に終わったよ。リオンの世話改めてありがとう」


「お互い様よ。ルノアもウチや夫が息子を見れない時、面倒見てくれるじゃない」


「まぁ、それが仕事でもあるからね」


 パスタをフォークに絡めながら尋ねる。


「今日はお父さんと一緒かい?」


「ええ。あの人が休みだから一緒に公園に出かけてるわ」


 テレビは音楽番組に変わった。


 そこでヘーゼルはあっ、と声を上げる。


「どうした?」


「サトルくんの飼い主のメアリーさんいるでしょ?」

 

「ああ、覚えているよ」


「その人の友達がね、なんか困ってるみたいで、近々依頼するかもって言ってたわ」


 ルノアは頷いた。


「了解。いつ来るかとか分かったらまた連絡して」


 そう言ったらヘーゼルはピタッと動きを止めた。


 ルノアは首を傾げる。


「どうした?」


「いや……そのメアリーさんの友達はね、少し訳ありで、いつ来るか、誰なのか、とかちょっと言えないかも」


「……ふむ。まぁ訳ありな依頼人は珍しくないよ。一応先方に事務所の営業日と営業時間だけ、伝えておいてくれるかな?」


「ええ、メアリーさん経由で伝えておくわ」


 食事の後。


 まったりと喋ったり、それぞれ本を読んだり、リオンと遊んだりして時間を過ごした。


 窓からは西日が入ってくる時刻になった。


「さて、夕食も作らないとだしそろそろ帰るわ」


「ああ。ブレスレットのこと本当にありがとう」


「どういたしまして」


 ニッコリとヘーゼルは微笑む。


 リオンが、見送るかのようにドアまでついていく。


「リオンもまたね」


 そう言ってヘーゼルは帰って行った。


 ルノアは戸締りをする。


 その後、左腕のブレスレットを触りながら献立を考え込む。


 街に、夜の帳が下りていった。

 

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