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よろず屋スイートピー  作者: ハク*
プロローグ
3/11

3.コーヒーの味

本日、3話目の投稿です。


 調査六日目。


 その日は小雨だった。


 ルノアはフードのついた服を着て張り込みを続ける。


 昼。対象の外出を確認。


 ジュリアンは傘をさして住宅街を抜け、歓楽街へと入っていく。


 カスミガハラ料理店へと入っていく。


 建物は木造建築だった。ここヴェルクロアの建物としては珍しい作りだ。店内にはカスミガハラの民族音楽が流れている。


 ルノアは近くの席に着く。


 ジュリアンはうどんを頼む。ルノアはメニューを見て焼き魚定食を頼む。


 魚は中央大湖から毎朝直送されている新鮮な魚なのだろう。身がしっかりついて美味しかった。


 ジュリアンの食事が終わり、店を出る。


 ルノアも勘定して後を追う。


 彼は歓楽街の奥まった方向へと歩いていく。少し小走りになり、周りをキョロキョロと確認しながら進んでいた。


 ルノアの緊張感が上がる。しっかり認識阻害と隠密の魔法をかけ直す。


 そこは夜の街だった。休日だからだろう。軒先で露出の多い女性たちによる客引きが、盛んに行われている。


 ギラギラとした雰囲気に苦手意識が出る。


 ジュリアンは挙動不審ながらも、迷いなく人混みをすり抜けていく。


「おにーさーん。お店で飲んでかなぁい?」


 その時、ジュリアンが1人の赤髪の女性に捕まった。腕を取られて胸に押し付けている。


 ルノアは慎重に2人を追い越していく。聴力を強化して会話を聴く。


 ジュリアンは戸惑ったように対応していた。


「あ、その予定があって、その、すみません!」


 腕をなんとか引き抜いて断っていた。


 夜の店に来たわけじゃないのか?


 いや、まだわからない。お気に入りの店があるのかもしれない。


 ルノアは路地に入り、ジュリアンが追い抜くのを待つ。


 しかし、ジュリアンはまさにルノアが曲がった路地に入ってくる。


 (やばっ!)


 急いで隠密魔法を強めて存在を消す。ついでにフードを深く被って顔を隠す。


 ジュリアンはルノアのすぐ前を通り過ぎ、路地の奥へと進んでいく。


 ルノアのことは全く認識しなかったようだ。


 その先はどこか変わった雰囲気の通りだった。


 少しギラギラさは落ち着いてた。しかし、怪しげな骨董品、怪しげな薬草、怪しげな雑貨、などが店先に飾られた通りだった。


 こんな所で逢引きをするのか?


 まさか、ね。


 ジュリアンは怪しげな魔導具店の横、ショーウィンドウの店に入っていった。


 ――カラン


 ドアベルが鳴り、


「いらっしゃいお兄さん、よく来たね」


「……どうも」


 と、店員らしき人とジュリアンの会話を強化された耳が拾う。


 ルノアはショーウィンドウを眺める。


 そこは、おそらく人形店だと思われた。


 多種多様な民族衣装を着た人形たちが、ガラス玉の瞳でルノアを見つめ返す。


 人形店で逢引き?流石に違うか。


 気配をゼロにしてガラスドアの前に立つ。


 ここまで強く魔法を使っても、修行を続けてるルノアには疲労や副作用は出ない。


 しかし、流石にあまりにも短時間で連発しすぎた。


 魔法の制限時間が迫っている。


 ジリジリと焦りが募る。


 この魔法が切れたら長い冷却期間に入る。


 少なくとも半日から1日は使えないだろう。


 この店で決定的瞬間を確認できなかったら、流石に今日は厳しいかもしれない。


 ――その時


「……やぁ、今日も綺麗だね。元気にしてたかい?」


 と、ジュリアンが誰かに話しかけていた。


 ルノアは緊張してドアの隙間から中を覗く。


 ルノアはその光景に目を見開いた。


「……え?うんうん。僕も元気だよ。でも仕事でお客さんに怒られてね。疲れちゃったよ」


 ――ジュリアンが話しかけていたのは一体の人形だった。


 カスミガハラの民族衣装に身を包んだ、黒髪のおかっぱスタイルの人形だ。


「……えーそうなのかい?ツバキも苦労してるんだね。せっかく綺麗な髪をしてるんだから店主さんに手入れしてもらってね」


 ジュリアンの頬は赤く染まり、目はキラキラと輝いている。


 ルノアはその様子を小型の魔導カメラで撮影する。ヘーゼル作の音が鳴らない優れものだ。


「……あーツバキを家に連れ帰れたらなぁ。うん。僕もツバキと暮らしたいよ。でも婚約者がいるし流石にね」


 彼は人形が収められてるガラスケースにそっと手を添える。


「……うん、エマは別に悪い子じゃないよ。でもツバキに対するような胸のときめきは感じないんだよね」


 ルノアは呆れてしまう。それは婚約者に酷すぎるだろう。しかし、仕事に私情は挟めない。感情を消して写真を収めていく。


 懐中時計で時間も確認して、会話内容も手帳に記録する。


 そこまでしてからそっとドアから離れる。


 少し離れた所で隠れて待つ。


 小一時間経った後ジュリアンは店から出てきた。


 何度か店を未練がましく振り返りながら、大きい通りの方に向かう。


 ルノアは一応、最後まで尾行を続ける。


 しかし――


 客引きのいる通りを追跡していた時、


 ――ドカァン!


 ルノアのすぐ横の店から、ドアを突き破り男が1人飛び出てきた。


 ルノアは咄嗟に後ろに避ける。


 男は道に転がった。


「……ぐっ!……あのヤロー……」


 彼は傷だらけで頭から血が出ている。


 その男を追うように店から2人の男女が出て来た。


「……リコ!」


 以前、ルノアが受けたペット探しで出会った3人だ。

 

 その3人を追いかけるようにドアの無くなった店から、禿頭の大男が1人ぬっと出て来た。


 チラッとジュリアンを見ると彼は3人を少し見た後、店から出てきた大男を見て恐れたように歩き去った。


 一般人としては正しい反応だ。


 どう見てもコイツらはカタギの人間ではない。


 道を行き交っていた人々も遠くから眺めたり、足早に立ち去ったりしている。


 好き好んで関わりは持ちたく無いだろう。


 女が禿頭の大男に向かって叫ぶ。


「よくもリコを!」


 大男は低い声で威圧する。


「吐け。娘はどこにいる?」


 リコと呼ばれた男がよろよろと体を起こしながら仲間に言う。もう1人の男がリコを助け起こす。


「……ニコ、ライラのアネキ、逃げてくだせぇ!俺がコイツを引き止めるんで!」


 ライラと呼ばれた女が答える。


「バカ野郎!お前を見捨てて逃げれるか!」


 禿頭の大男はそのやり取りを見て、フンっと鼻で笑う。


「どの道3人とも逃すつもりは無い。吐かないなら殺すまでだ」


 そう言って拳を構える。


 この男はレイヴンファミリーの幹部クラスである。完全武装した警察隊20人を、拳だけで叩きのめした暴漢だ。


 ルノアは止めに入るか少しだけ迷う。


 マフィア同士の喧嘩を仲裁しても、メリットは無い。経験から学んでいた。


 ただ――流石に目の前で人が死ぬのを見るのは寝覚めが悪い。


 ルノアが一歩前に進むと、


 大男がチラッとこちらに視線を移す。


 その瞬間――


 大男は、


 蛇に睨まれたカエルのように顔を青ざめて


 ブワッと大量の汗をかいた。


「……ひっ!……や、闇月の執行者!?」


 そう言うが早いか、


 今までの余裕が嘘のように、脱兎の如き速さで背中を向けて逃げて行った。


「「「………………へ?」」」


 3人組は間抜けな顔でポカンとする。


 残された人々の間になんともいえない空気が漂った。


 相変わらずこの2つ名は便利だなぁ、とルノアは呑気に考える。


 そして、何も言わずに3人組を放って歩き始める。


「あ!……ありがとうございました!!!」


 チラッと後ろを見ると、


 ライラと、リコと、ニコは頭を深く下げて感謝している。


 だからマフィア同士の喧嘩を仲裁したく無いんだよな、とルノアはふてくされる。


 彼女は何も反応を返さずにさっさと歩き去った。


 その2日後。


 依頼主のエマはルノアの連絡を受けて事務所に来た。


「これが中間調査報告です」


 そう言ってファイリングした資料を彼女に差し出した。


 感情を廃し、ただ事実だけを記録した物だ。


 エマは、読み進めるうちに段々と顔をしかめていった。


「人形……。そう……ですか」


「どうしますか?まだ……調査を続けますか?」


 彼女は5秒ほど考えてから、かぶりをふる。


「いえ、これで大丈夫です。ありがとうございました」


 エマは財布を取り出す。


「これが約束の報酬です」


 ルノアは額をしっかり数えて頷く。


「はい。確かに」


「本当にありがとうございました」


「いえ、また何かありましたら是非うちをご利用ください」


 エマは頷き、ドアに向けて歩き出す。


 そして、ピタッと扉に手をかけて立ち止まる。


「その、よろず屋さんにこんな事言っても仕方ないんですが……」


「はい、なんでしょうか?」


「……たぶん、私たち別れると思います」


 そして、返事に困るルノアを置いて彼女は扉から出て行った。


 今日は快晴である。


 リオンはソファの上でお気に入りのネズミのおもちゃと戯れている。


 ルノアはキッチンに向かいコーヒーを淹れる。


 少し――淹れかたを間違えたようだ。


「にがっ」


 とても苦い――味がした。


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