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よろず屋スイートピー  作者: ハク*
プロローグ
2/10

2.浮気調査

本日2話目の投稿です。

 朝、コーヒーを飲みながらニュースと新聞を確認する。


 テレビでは、隣国アルナシムや小国でのツアーを終えたジャズシンガーが帰国したことを報じている。

 

 ルノアは、いつも通り仕事をこなしていく。


 昼前、チャイムが鳴った。


 お客さんを迎え入れる。


「いらっしゃいませ」


「……お邪魔します」


 落ち着いたワンピースを着た女性だった。


 ソファに座ったその彼女はエマと名乗った。


 ルノアから受け取った名刺を手の中で弄びながら質問する。


「……ここではう、浮気の調査も受けていると伺ったのですが……」


 彼女の視線は少し落ち着きがない。


 安心させるように微笑んで答える。


「はい。浮気などの身辺調査も請け負っております。誰か調査して欲しい方がいるんですね?」


「……はい」


 エマはぽつりぽつりと話し始める。


「私には婚約者がいるんですが、最近様子がおかしくて……。デート中、心ここにあらずだったり、約束の時間に遅れたり、この前なんて街で見かけた時、キョロキョロとしながらどこかに向かっていたんです」


 だんだんと口調に熱が入っていく。


「ふむ、いつもとは違う様子、ということですね」


「ええ、しっかり者で約束に遅れたことなんて今まではありませんでした」


「それは心配ですね。わかりました調査をしましょう」


「ありがとうございます……」


 エマはほっとしたように息をつく。


「なにか婚約者の方の姿が映った写真などはお持ちですか?あと彼のお名前と、勤め先や行動範囲を伺っても?」


 婚約者の名前はジュリアン、職業は役所に勤めているようだ。


 細かい行動範囲や報酬と連絡先を話してから、エマは帰って行った。


「よろしくお願いします……」


 おそらく、婚約者を信じきれないことに罪悪感があるのだろう。最後まで暗い顔をしていた。


 エマが去った事務所の隅では、前回の依頼者から貰ったおもちゃで遊ぶリオンがいた。


 鈴付きのネズミのおもちゃで、音を鳴らして戯れている。


 ふ……と笑って仕事に取り掛かる。


 リオンにお留守番を頼んだ後、バイクに乗ってジュリアンの仕事先へ向かう。


 今の時間はちょうど昼休憩の時間だろう。もしかしたら、食事に出かける彼を調査できるかもしれない。


 役所から少し離れたところにバイクを停める。


 魔法をかけて隠密状態に入る。


 完全に気配を消す魔法はまだ使わない。軽くかけておく。


 役所の向かいにちょうどアルナシム料理の店があった。窓際の席で役所の入り口を見張りながら食事をする。


 食事が終わる頃、ジュリアンが役所の入り口から同僚らしき人物たちと連れ立って出てきた。


 ルノアは写真でも一度見た人物は忘れない。


 彼らは役所の二つ隣の大衆食堂へ入って行った。


 ルノアは店を出て、今度は気配を完全に消してから大衆食堂の方へ近づく。短時間しか持たないが十分だろう。


 食堂へ入る他の客に紛れて潜入する。ジュリアンたちは壁際の席に座っている。


 近くの壁に寄りかかり彼らを観察する。


 席につかないルノアに周りは全く気にしない。


 彼らは仕事やプライベートについて語っていた。今の所は特に浮気の証拠につながるような話は無かった。


 食事が終わり、彼らは店から出て役所に帰って行く。


 ルノアは役所の入り口まで見送り、隠密魔法を軽くする。


 これから終業時間までは特に動きはないだろう。


 役所の入り口が見える位置に隠れて、見張りを続ける。


 終業時間。ジュリアンが仕事を終えて役所から出てきた。


 彼は表通りに出て、路面電車に乗り込み帰路に着く。


 ルノアは愛車のバイク、ジュンに乗り路面電車を追いかける。


 ――チンチン


 電車は音を立てながら、夕刻の街をゆったり走っていく。


 人々は家路を急ぎ、車が行き交い、街自体も眠りにつこうとしていた。


 ジュリアンは30分ほど乗った後、住宅街の停車駅で降りた。


 ルノアはジュンを走らせて、追い抜いた曲がり角の先で停車する。


 ジュンを路地に隠してから通りを覗く。


 ジュリアンは迷いなく歩いていた。


 住宅街の先、単身者用の賃貸に向かっていた。


 彼は階段を登り、3階の自室を開けて入って行った。


 ふむ。


 ルノアはここまでの記録をしっかり手帳にメモする。


 その日の夜、彼の部屋から電気が消えるまで観察を続けた。


 ジュンに乗り帰路に着く。とりあえず今日は仕事と家のルートの確認はした。


 明日から3日、平日が続くので、基本は同じ行動だと思われる。


 夜遅くまでやってる商店で、日持ちする食べ物やリオンの餌を買い込む。


 もし動きがあるとしたら、休日とその前日だろう。

 

 ルノアは事務所に帰りつきリオンの世話を焼く。


 明日からはしばらく拘束されるので、それに向けて受けている簡単な仕事をまとめて終わらせておく。


 その翌日。朝イチで配達の仕事を終わらせていく。


 仕事をこなした後、ヘーゼルに電話する。


「もしもし、ヘーゼルか?」


「ルノアじゃない。この間のメアリーさんの依頼ありがとうね。とても喜んでいたわ」


「礼を言うのはこちらだよ。リオンにプレゼントまで貰ってしまった」


「あら、そうなの?」


 電話越しでコロコロと笑う彼女。


「それで?今日はどうしたの?」


「ああ、実は少しの間拘束される依頼を受けてね。家に帰るのが遅くなったり、帰れなかったりする場合がある。だから、リオンの世話を頼もうかと思って」


「あら……依頼内容は聞かないけど大丈夫なの?」


「安心して。危険な依頼ではないよ」


「そう……」


 ヘーゼルはホッとした声を出す。


「分かった。いつも通り合鍵を使って入るわね」


「ああ、よろしく頼む」


 リオンにも話しかけておく。もちろん言葉を理解出来るとは思ってない。だがこの子はペットを確実に探し当てる事が出来るほど利発だ。


 もしかしたら本当に分かってるのかもな。なんてバカバカしい妄想をしてみる。


 ふ…と笑いながらリオンの頭を撫でる。


「リオン、少しの間留守番頼めるか?ヘーゼルには世話を頼んでおいたから寂しくないよ」


「にゃあ」


 リオンは分かった、というかのように返事する。


「よし、じゃあ任せたよ。行ってきます」


 今日はバイクのジュンには乗らない。大体の行動範囲は把握したので、小回りが効くように徒歩で調査に向かう。


 ジュリアンの調査。


 調査二日目。特筆すること無し。


 調査三日目。特筆すること無し。


 調査四日目も、特筆すること無し。


 ルノアはほとんど家に帰らずに調査を続ける。


 夜遅くに帰った時、リオンの世話をヘーゼルがしてくれた形跡を感じてホッとする。


 とうとう休日に入る。


 その日、ジュリアンは家から出て行動を開始した。


 住宅街を抜け、歓楽街に入る。


 ルノアは注意深く尾行を続ける。


 食料品店や雑貨屋に入り買い物をする調査対象。


 買い物を終わった後、荷物を抱えて路面電車に乗る。


 今日はルノアも同じ車両に乗る。もちろん気配を抑える隠密魔法と、認識阻害魔法をかけるのを忘れない。


 ――チンチン


 電車はまっすぐジュリアンの住む住宅街へ向かう。彼は停車駅で降りて帰路に着く。


 その日はそれ以上外出することは無かった。


 多少肩透かしを食らったが、身辺調査な長期戦が常だ。


 ルノアは明日も休日だな、と思いながら今日の調査を終えた。

 

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