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file.31 貴女様は! 魔王様の!


 魔王様がお戻りになられた。


 そう判断した私は、即座に頭を垂れて出迎えの態勢に移ろうとしましたが、やめました。


 何故なら──。


「ク、クイン!?」


「おい女、貴様なぜ私の名を知っている」


「きゃッ!!」


 扉の向こうから現れたのは魔王様ではなく、白と黒を基調としたフリフリの服に身を包んだ、真っ黒い髪の女だったからです。


「いいや、そもそも何故魔王様の居室に──どうやって、王の間に立ち入った。ここは今現在私以外の立ち入りを禁じられている。知らなかったで済まされる事ではないぞ」


 当たり前のようにダフティリーズ様の居室に忍び込もうとした賊の手を掴み、女の身体をドアに押し当てた私は、返答次第で即座に殺せるように魔眼に魔力を充填した。


「ちッ違うの! えっと、あの、そうじゃなくて! わっ! ちが! か、買い物に行きたくて! えっと、えっと」


 ドアに押し当てられるようにして身体を完全に固定された謎の女は、私に手を掴まれた事で、持っていた紙袋やぬいぐるみを床に落としてしまう。


 紙袋からは女性物の洋服や化粧品が飛び出して、無造作に床に散らばってしまったが、知った事ではない。


 今にも泣き出しそうな顔になりながら、必死になって何かを言おうとしているが、言いたい事があるなら早く言って欲しいものだ。


 すぐに殺しても良いが、ここまで入り込めるだけの力がある事は気になる。


 何者かに手引きされた可能性も考えられるので、まずは口を割らせるしかない。


「質問に答えろ。何故王の間に立ち入った。魔王様の反対勢力は全て根絶やしにしたはずだが、一体誰の差金だ。貴様は何者だ。返答次第では楽に殺してやる」


 この女が魔王様の敵かどうか。


 この女の目的がなにか。


 聞くべき事はこれだけだ。


「や! やだッ!! やだ! わ、私が魔王で、だから殺さないで!」


「何を訳のわからないことを言っている。次にくだらない事を言えばその瞬間に頭を吹き飛ばすぞ」


「やっ! やだやだやだ! やめてっ! こ、ここ、殺さないで! 話を聞いてよ、クイン!」


「だから貴様は何故私の名を──」


 ここまで来て私はあることに気が付いた。


 ある可能性に気付いてしまった。


 魔王様のお部屋に散乱していた女物のフリフリの衣服。


 綺麗に並べられていた沢山のぬいぐるみ。


 そして今、私の目の前に居る女性。

 

 白と黒を基調にした、何の意味があるのかまるでわからない沢山のリボンが着いているフリフリの服。


 落とした紙袋には化粧品やアクセサリなどが入っていて、私に掴まれた事で手放してしまったぬいぐるみの造形は、ダフティリーズ様の部屋の中で何匹も見た、猫のような猫じゃないような変わった生き物。


 な、何と言うことだろうか。


 この女は。


 この方は!。


「ま、まさか、魔王様──と、お付き合いされている方でしょうか?」


「──え?」


 今私がドアに向かって身体を押し当てている方は、魔王様の彼女さんかもしれない。


 ここまで状況証拠が揃っていたら、いくら私でも気が付いてしまう。


 私は何と言う事をしてしまったのだろうか!


「申し訳ええええ! ございませんでしたああああッッ!!」


 間違いありません。この方は魔王様の彼女さんです。


 未来の奥方様になるかもしれない御方に、私は何と言う無礼を……!


「無論、死を持って償わせて頂きますます故! どうか、ダフティリーズ様と末永く幸せになって頂きたく存じ上げます! それでは、おさらば!」


 気付いた瞬間に手を離した私は五体投地をもって謝罪して、そのまま舌を噛み切って死ぬことにしました。


「ちょちょちょちょ!! ままままっ待って待って待って! 展開が早い!!」


 しかし、ダフティリーズ様の未来の奥方様は、今まさに舌を噛み切らんとしていた私の下に急いで駆け寄ってきたかと思うと、そっと身体を起こしてくださいました。


「このような不浄な身で、もはやダフティリーズ様にお仕え出来るはずもなく。先程の無礼を許して貰おうなどとは考えておりません! ですが、どうか私の死体を煮るなり焼くなりして、少しでも溜飲を下げていただければ幸いにございます」


「死体とか要らないです! い、いいから話を聞いてください。私は、あ、ほ、ほら、全然怒ってないですよー。全然大丈夫なので、クインはとりあえず生きてください」


「な、なんと……。この身が働いた無礼を許される、と。貴女様は、そう仰られるのですか?」


「許す許す! 全然許すから。だ、たからとりあえず立って生きて。……あと、話を聞いて」


 流石は魔王様がお選びになられた御方です。


 ダフティリーズ様に大変良く似ているのか、壁に叩きつけられるようにして危害を加えた私を、いとも容易くお許しになってしまいました。


 そのあまりの優しさに、私は涙を禁じ得なかった。


「と、とりあえず、泣くのも後にして貰っていいかな」


「はっ! ご命令とあらば!」


 感動の涙は瞬時に止まった。


「……えーっと、あーっと」


 と言う事で、折角抱き起こしていただいたものの、私は再び五体投地の構えをもって、未来の奥方様の発言を受け止める事にしました。


「このクイン=アドウェルサ! 魔王様の為とあらば、どのような命令も遂行可能です!」


「うん、まあ……。それは、知ってる」


「なんと! ご存知頂いているとは光栄にございます!」


 私の話はダフティリーズ様からお聞きになっていたのでしょうか。


 魔王様と未来の奥方様の間で話題にされていたとは、なんと光栄なことでしょうか。


「……って言うか、魔王様とお付き合いされているどうのって言うのは何? ど、どう言う事?」


 こうして、フィラフト様より固く禁じられていた事もあって、プライベートでは一切接触することのなかったダフティリーズ様の謎が、少しずつ紐解かれていく事なりました。

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