file.30 つまりは、そう言う事だったのです
「──と、思いましたが」
ぬいぐるみの山の中から現れた魔王様に一瞬驚いてしまいましたが、冷静に見ればそれもすぐに落ち着きました。
「何故このような場所に魔王様の甲冑が」
魔王様が普段から身に纏われている甲冑。
強すぎるお力を縛るための拘束具の役割を果たしている甲冑が、そこにあった。
「……これは、どう言う事でしょうか」
ダフティリーズ様は、その余りにも強すぎるお力で周囲に被害を出さないようにと、四六時中この動き辛そうな甲冑で全身を覆われている。
『こ、この甲冑がなければ、歩くだけで世界を破壊してしまうかもしれない』
そのように仰られていたのに。
そのお力が世界に害を及ぼさないようにと徹底してその身に纏われていた甲冑が、何故ここに?
「どうやら、私が考えていたよりも事態は深刻のようですね」
甲冑がここにあるという事は、今現在魔王様はその強すぎるお力を溢れさせている状態にあるはず。
一見すると何の効果も感じられない、拘束具の役割を果たしていると言うこの甲冑。
それを脱ぎ捨てた魔王様が一体何をなさっておられるのか、考えるだけでも恐ろしい事です。
「──確か、勇者が関係している、と」
フィラフト様はそのように仰られていませんでしたか?
ダフティリーズ様の無断欠勤には勇者が関係していて、部屋の中にはぬいぐるみの山に隠されるようにして脱ぎ捨てられていた、拘束具たる甲冑。
「ふっ──ふふふ! ふふふふ! ふふふふふ!」
わかりましたよ、魔王様!
「御身自ら勇者の討伐に向かわれたのですね!」
流石は魔王様です!
恐らくではありますが、四天王の一角が崩された事で我々のようなか弱き魔族に勇者の対処が出来ないとの考えに至ったのでしょう。
それでも、お優しい魔王様は我々のプライドを傷付けぬようにと、誰にも告げる事なく御一人で勇者の討伐に向かわれた、と。
全てを理解した瞬間、それまでただ神々しさしか感じられなかった、ぬいぐるみの山に埋もれたダフティリーズ様の甲冑から、気のせいか優しさの波動を感じ始めました。
「無断欠勤ばかりしていては駄目ですよと、一言だけ諫言を立てようかと思いましたが。魔王様の御心を理解出来ていなかった私の心の、何とさもしいことか……」
しかし、良かったです。
確かに、今現在魔王様はここには居ませんが大凡の足取りは掴めるでしょう。
まさか勇者討伐に御一人で向かわれていようとは想像もしておりませんでしたが、今まで一度も戦場に赴かれた事のない魔王様が遂に動かれたのです。
これが何を意味しているか、ふふふ。
「人族の滅びの時は近いのやもしれないですね」
ステファノス様の時代は魔族領域の大改革の為、人族との戦争も殆ど起こらず。
続くフィラフト様の治世では、魔王様の改革に対する反対派を虱潰しに駆除していたせいで、人族との戦争は殆ど起こらず。
ダフティリーズ様は毎日紅茶とお菓子を食べておられたので、人族との戦争は起こりませんでした。
確かに局所的な争いはありましたが、魔族と人族はここ百数十年は国交正常化に向けて話を重ねていましたからね。
戦争などもう無いのかと思っていましたが、再び始まるのですね。
戦乱の世が!
「魔王様がついに動かれた。それはつまり、終わりの時が来たと言う事です。或いはこの星も終焉を迎えるかもしれませんが、魔王様さえ存命であれぱ、世界はそこにあります。我ら魔族の事など気にせず思い切りやってくださいませ、魔王様!」
そうして、世界の終わりを悲しみつつも魔王様のお力が見られる事を嬉しく思った私が、ぬいぐるみの中に紛れている甲冑をもっと相応しい場所に綺麗に飾ろうと取り出したその時──。
「おや?」
持ち上げた兜から、何かがひらりと落ちる事に気が付きました。
どうやら、ひらりと床に落ちたのは、可愛らしい絵が描かれているメモ帳の切れ端。
なんとも魔王様には似つかわしくないアイテムではありますが、魔王様の兜から出て来たのであれば、たとえそれがただの石ころであっても私にとっては宝石です。
「大切に保管しなければ──ん?」
紙はすぐに劣化してしまうので急ぎ保管しようと、床に落ちてしまったメモ帳の切れ端を拾うと、気になる文字を発見してしまいました。
「……なんと、これは」
拾った紙には、私に宛てたメッセージが書かれていたのです。
クインへ
この紙を見ていると言う事は、お前は今無断で私の部屋に入っているのだろう。
本当なら許さないけど、今はそれも許そう。
私は所用で少し出掛けるので、帰るまでの間、魔王城のことは任せます。
あと、ぬいぐるみは断じて私の趣味ではないです。
母上に頼まれて仕方なく集めていただけです。
私の趣味ではないです。本当です。
「なるほど。これらのぬいぐるみは、フィラフト様の奥方様のご趣味でしたか。それにしても……。ふふふ、所用だなどと。勇者討伐とお書きにならないその慎み深さ、感服致します」
当初懸念したような体調不良などではなく、魔王様はちょっと勇者を討伐しに出掛けているだけのようで本当に良かったです。
「さて」
それがわかってしまえば問題ありません。
魔王様が我々の見えない所で最善を尽くされているのであれば、私もまた最善を尽くすまでです。
まだ魔王様と覚しき御方と勇者が激突したと言う情報は入ってきていませんが、魔王様に色々と考えがある事はわかっていますとも。
勇者の力はその多くが解明出来たとは言え、未だに不明瞭な点も多い。
そこを警戒して様子を見ておられるのでしょう。
様々な不安と疑問が解消されたことで晴れやかな気持ちになった私は、とりあえず魔王様の甲冑を綺麗に磨きあげる事に。
そして、恐らくは魔王様と恋仲にある女性のものと思しき、やたらとふりふりとしたリボンの付いた衣服を魔術で綺麗して、いつ帰ってきても大丈夫なようにベッドメイクをしてから部屋を後にする事にしました。
しかし、いざ部屋を出ようとダフティリーズ様の居室と王の間を繋ぐ大きな扉に手をかけた、正にその時──。
「!」
私が開くよりも前に、その大きな扉かギィと言う大きな音を立てて、目の前で開きました。




