【11】聖愛学園
その頃、入り口扉の両隣には、鬼泉正輝が倒した二人の不良が気絶して倒れ込んでいた。
鬼泉正輝は地下クラブ【ラピス】の扉をガチャっと開けた。
照明の淡い赤に染まる空間。扉を開くと、タバコの煙が充満した。タバコの煙に混じって、甘ったるい香りと汗の臭いが漂う。
鬼泉正輝が鋭い視線を感じた。
煙の向こう、クッキーの紙箱を囲んでいた亀元と四人の不良が、一斉に、正輝を見たからだ。
「誰だぁ? オメェは・・・」
亀元武史が大きな身体を鬼泉正輝に向けて問いかけた。
「おい、兄ちゃん、今日はこのクラブは貸し切りだぞ。どっか、他で遊べや」
不良の一人が言った。
不良の声を無視して、鬼泉正輝がツカツカとラピスの店内の奥の亀元武史達がいる丸テーブルに歩み寄って来た。
鬼泉正輝が拳を鳴らした。
その鬼泉正輝の顔をみて不良の一人が言った。
「お? 転校生じゃん。亀元君、こいつが、さっき話に出た、こないだ、うちのクラスに来た転校生っすよ。確か鬼泉正輝とかいうカスいダサ男です。聖愛学園?とかいう田舎のカス高校から帝林高校に転校してきた奴です」
不良の一人が鬼泉正輝を指差しして言った。
すると、別の不良の一人が鬼泉正輝の正面に立って下から睨みながら鬼泉正輝を見上げた。
「おい、なんだ? 転校生。ここは俺たち天獄会玄武隊の溜まり場だぞ。天獄四天王、亀元さんのグループに入りたいのか?」
その睨み上げた不良が鬼泉正輝に問いかけた。
鬼泉正輝は何も答えなかった。
「おい、何無視してんだよ! 俺ら天獄会玄武隊に入隊したいなら、当然、それなりの上納金用意しているんだろうな?」
鬼泉正輝が、自身を睨み上げる不良を横に押しのけると、五人の中の一番大きい男、亀元武史を鋭い視線で見下ろした。
「おい、大男、お前が亀元武史か? 天獄会玄武隊の四天王とかいう、不良チームの頭のうちの一人の」
亀元武史は何も答えず、椅子に座ってクッキーをボリボリ食べながら鬼泉正輝を見ている。
押し除けられた不良が鬼泉正輝の右肩に手をかけた。
「おい、転校生、何偉そうに亀元君にガン付けてんだよ。この方が天獄会玄武隊四天王 亀元武史君だったら、何だってんだ? てめぇ、死にてぇのか? ああん?」
鬼泉正輝は、その不良の腕を掴むと一気に捻り上げた。
「ぐあっ!」
体勢を崩した男の足を払う。
ガンッ!
男は床に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
「うおお・・・」
四人の不良のうちの一人が感嘆の声を上げた。
脱臼された一人以外の三人の不良が席を立った。亀元武史だけ座りながら試すような目で、鬼泉正輝をまっすぐ見ていた。
「お、おい、てめぇ、いきなり何しやがる! 転校生、殺されてぇのか!」
不良の一人が鬼泉正輝に聞くやいなや、
「死ねやオラァ!」
席を立った一人の不良がパイプ椅子を持って鬼泉正輝にかけ走ってきた。
「くらえぇ!転校生!!」
不良がパイプ椅子を振り下ろす。
鬼泉正輝は振り下ろされたパイプ椅子の一撃を瞬時に躱し、その不良に左肘をみぞおちにいれた。
「ぐぼっ!」
不良が怯んだところを鬼泉正輝はパイプ椅子を奪い、その角で不良を殴りつけた。
ゴガッと音がした。
「ぎゃあっ!」
不良は仰け反って崩れ落ち、そのまま気を失った。
立っている二人の不良は騒然とした。
相変わらず、亀元武史は座ってクッキーを掴んだまま、じっと鬼泉正輝の様子を伺っていた。
鬼泉正輝がパイプ椅子を投げ捨て一歩前に出る。
「舎弟使って女連れ込んで言う事聞かなきゃ殴って監禁。一体何食ったらテメェみたいなゲス野郎が出来上がるんだ?」
鬼泉正輝が獲物を狩るような冷徹な瞳で歩を進めた。一対三の人数差にも関わらず、鬼泉正輝が瞬時に二人を叩きのめしたことの衝撃に不良達はたじろいた。
「な、なんだよ、こいつ、聖愛学園とかいう、ただの田舎高校からの、いじめられっ子転校生じゃねーのかよ・・・」
不良の一人が言った。
すると、もう一人の不良が聖愛学園の名前を思い出し、顔を青ざめさせて言った。
「聖愛学園・・・! そ・・・そういや聖愛学園って!!」
鬼泉正輝が三人に向かってくる。
「確か、高校じゃあねぇぞ! 喧嘩最強のワル達が集う中、その中で喧嘩最強になった奴だけが出所できるって噂の、少年院じゃねーか!」
次の瞬間、鬼泉正輝の稲妻のような蹴りで、叫んだ不良が派手に吹っ飛んだ。
すると、鬼泉正輝を見つめたまま黙っていた亀元武史の瞳から、余裕が消えた。
突然立ち上がり、ウオオォと雄叫びをあげた。
「てめぇいい加減にしろやぁ!」
亀元武史が、怒りの表情を現わにした。
次の瞬間、鬼泉正輝に向かって、亀元武史が、ものすごい勢いで走り襲いかかって来た。
テーブルの上のクッキーの箱が床に落ち、中身が派手に散らばった。




