第9話 四英雄
エルナがどういった決断を下すのか…それによってはこちらのとる行動も変わってくる。
それこそ命に関わるレベルで…。
「はぁ~~よかった…そっかじゃああいつらに関わりはないんだね」
「えっ!?」
「ごめんなさいね。私には嘘を見破る魔法があるの…だからあなたが本当の事を言ってるのは分かったわ」
どうやら嘘をつかなかったのは正解だったようだ。
「私が警戒していたのは、あなたが四英雄の関係者かどうかって事だったの」
「四英雄?」
「そう、今この世界で跋扈してるクソみたいな奴らよ…私がこんな僻地に引き籠もってるのもそいつらが理由なの」
どうやらかなりきな臭い連中のようだが…英雄と呼ばれているのであればそれなりに凄い連中のように思うのだが。
「まぁともかく四英雄の関係ないならいいわ。それで異世界から来たから何も持ってなかったの?」
どうやら俺の荷物を周辺で探してくれたそうだが、見当たらなかった為、そのまま連れてきてくれたそうだ。
「はい、気付いたら森の中で素っ裸でして…」
「それは難儀だったわね。まぁそれでも私と会えたのは幸運だったわね」
「本当にそれはもう…正直あのまま森の中で彷徨ってたらと思うと…」
考えただけでもぞっとする。
何の装備もなくこの僻地の山の中で彷徨うなんて命がいくつあっても足りない。
「そうね、幸いにも私が近くにいたから襲われなかったけど本来なら強力な魔物達がたくさんいる森だもの」
とさらっと恐ろしい事実を暴露された。
「あの…魔物っていうのは…」
「色々教える前にまずは服をどうにかしましょうか」
確かに色々話をするというのに裸に外陰を被っている状態は色々とまずい。
焚き火の近くだと言うのに少し寒さを感じるという事は、これを脱いだら恐らく凍えるレベルである。
「四英雄の関係者じゃないのなら私の隠れ家に案内してもいいのだけど…その場合は、私の情報を漏らされないという契約をしてもらう事になるわ」
アニメや漫画でよく契約するのを見た事はあるが、正直知らない場所で契約を結ぶのは怖い。
とありがたい申し出のはずなのだが、悩んでいると…。
「悩んでるみたいね。まぁ当然よね、その警戒心は大事よ。この世界には奴隷契約っていうのもあるから下手にサインすると奴隷にされることもあるわ」
「そ、そんな契約もあるんですね…」
余計に怖くなった。
「まぁ契約は隠れ家を出ていく場合でいいわ。とりあえず隠れ家にいきましょう」
そう言ってエルナが杖を振ると黒い穴のようなものが出現した。
「こっちにいらっしゃい」
「はい…」
俺は大人しく後に続いた。
穴の中に入るとそこには美しい草原が広がっており、目の前には大きな家が立っていた。
西洋風の造りに青い屋根と横には倉庫があり、薪などが積んであった。
「こっちにいらっしゃい。ちなみに出るには私の許可がいるから勝手には出れないわ」
それはそれで監禁ではと思わなくもなかったが…まぁ背に腹は変えられない。
それにここまでしてもらったエルナに騙されるなら仕方ないとも思えるほどに恩を感じていた。
「とりあえず服を用意するから、そこにかけていて頂戴」
家の中に案内され、キッチンのような物の前にテーブルがありそこの椅子に腰掛けるように言われる。
エルナが奥に向かい大人しく待っていると…。
きょろきょろして家の中を見回しているとエルナが戻ってきた。
「体型は同じくらいだからこれで大丈夫だと思うけど」
そういって差し出された物を受け取り、着替えを促され洗面台のような場所にある部屋に案内される。
某お風呂の映画で見たローマ人の人たちが着ていたような布切れがあり、どうやらこれが下着のようだ。
服に袖を通していく、贅沢を言えた身分ではないがあまり上等な布ではないようで少し肌触りが気になる。
これで良いかと思い身だしなみを確認してから部屋を出る。
「ありがとうございます。大丈夫でした」
「それはよかった、さて疲れていると思うけど情報の共有をしましょう」
ここまでしてもらって疲れているからと甘える訳にはいかない。
「はい、私も色々と聞かせてください」
そこからエルナと色々と話をして情報を整理していく。
「なるほど…そんな不思議な世界に住んでいた訳ね」
「私のいた世界の情報はざっくり説明するとそんな感じです」
現代の国の成り立ちや仕組み、そして常識を伝えた。
「その常識だとこっちの世界はかなり無法地帯かもしれないわね…」
そう前置きをされた上でエルナから言われた情報は想像を絶するものだった。
生活の文化に関してはやはり中世から近世への移り変わる位の水準のようで、服や食文化もそれに乗っ取っているようだった。
しかし、一番の違いは魔法と魔物の存在だった。
この世界の人間は皆多かれ少なかれ魔力を持っており、魔法を使用することが出来る。
魔法は初級、中級、上級、最上級とわかれており一般人は初級魔法を使い生活しているそうだ。
しかしこの魔法というのが厄介だった。
明かりが欲しければ明かりの魔法を使えばいいし、火を起こしたりそれこそ掃除なんかも魔法で済ませる事ができるらしい。
これでは科学技術は育たない。
便利なのは分かるが、現状の生活水準を上げるには科学的アプローチが必要だと、話を聞きながら直感的に察していた。
そして魔物である。
この世界には動物と呼ばれるものは存在しない。
あちらの世界の動物=魔物という認識で良いようだ。
人と共に暮らす魔物もいれば食用の魔物もいる。
そして人に害を為す魔物…これが確認されている魔物の大多数を占めている。
小型から大型の魔物と種類は多岐に渡るそうで、スライムやゴブリンなんかもここに分類されるそうだ。
翻訳されてスライムやゴブリンと変換されているそうなので、実際の姿とは異なるのかもしれない。
あの森にも人を襲う大型の魔物が数多く生息してるそうで、人は滅多に踏み込まないそうだ。
「なるほど、こちらの世界についてはよくわかりました」
「それはよかったわ」
「今までの話を踏まえて2つほど聞きたい事があります」
「なんとなく聞きたい事がわかるけど…あなたの口から聞きましょうか」
「1つは、あなたの正体…そしてもう1つは四英雄についてです」
「1つは予想通りだけど、なるほどそっちを聞くのね。てっきり帰り方を聞かれるかと思ったのだけれど」
「ここまで話して、もし帰り方を知っていれば何も言わずに教えてくれていると思いますので…」
「そう、理解が早くて助かるわ。そうね…まず私の正体から話しましょうか」
彼女は、聞いている生活水準から考えると明らかに上等な服を着ており、もっと言えば先ほど使っていた魔法も含めて、明らかに一般人では使えないような魔法を使っていた。
「私は、世間では三賢者と呼ばれている者の1人です」
どうやら俺が会った女性は賢者様だったようだ。




