第4話 アヤネ
そして3人でご飯を食べる。
終始こちらの顔を見ながらご飯を食べるアヤネ…いつもはもっと汚しながら食べるのでこちらがフォローするのだが、今日は綺麗に食べている。
「今日は昼から来年に入る予定の幼稚園に見学にいくけどそれまでどこか行く?」
「お仕事おわった、あとだから、昼まで寝てていいよぉ」
「でも、いいの?」
当初は前日が休みだったので昼からの予定で問題なかったのだが急遽夜勤になってしまった以上昼までは寝ていて欲しい。
「うん、ゆっくり休んでて」
いつもなら駄々をこねるアヤネだったが今日は素直であった。
やっぱりおかしい。
「そっか、じゃあ少し寝かせて貰おうかな」
母も違和感を覚えていたと思うが恐らく眠気などもあるのだろう深く考えずに食事の片付けを終えた後に眠りについた。
「ちょっと話があるんだけど」
母が眠りについた後にアヤネからそう言われて呼び出される。
やはりいつものアヤネとは様子が違っていた。
母を起こさないように2人で子供部屋に入る。
「どうちた?」
母にはゆっくり喋っているのでまだマシなのだが、普通に喋ろうとするとどうしても舌っ足らずになる。
「あなたも転生者って聞いたんだけどほんと?」
「はぁ!?」
思いもよらぬ言葉を聞き驚いてしまった。
「あなたもって事はそっちも?」
「嘘でしょう…」
と言って頭を抱えてしまった。
「まずはお互いに情報共有をしませんか?」
「いいぞ」
どうやら今後の為に、頭を切り替えたようだ。
「どこから話しましょうか…」
「昨日まで、ひどかったのに、りゅうちょうにしゃべれるんだな」
「転生特典で前世の能力を引き継いだから…」
「なに、その特典…ちらない」
そんな特典があるとは思わなかった。
なんせ転生神サマは、終始笑っていてまともに会話ができていない。
「それだと話しにくそうだから身体強化魔法をかけてあげる」
と言ってアヤネの手から俺に向かって光が放出される。
「うぉ、なんだこれ」
「これで話しやすくなった?」
「すごいな、こんな事も出来るのか」
素直に関心してしまった。
「う、うん…」
なにやら頭をかいて照れているように見える。
そこからお互いに情報共有を行う。
「それは、なんというか凄い頑張ったな」
妹の成果を褒めるつもりで頭を撫でてしまった。
「う、うん…ありがと…じゃなくて18歳だから!」
と言って距離を取られてしまった。
昨日までにーさん、にーさんと言って付いて来ていたのに拒絶されると何か悲しい…。
どうやらこの世界とは別の世界で勇者として活躍して、最後には魔王と相打ちとなったらしい。
その功績が認められ異世界に転生してきたそうだ。
「私の記憶ではつい先ほどまで魔王と戦っていたので、非常に困惑してるんだけど…」
「ああ、そっか昨日の夜に戻ったのかそれは困惑だな」
3歳になるタイミングで戻すと転生神サマが言っていたのでタイミング的には俺に説明に来た時と同タイミングで記憶が戻されたようだ。
「にーさ…兄様は、いつから記憶が?」
突然の兄様呼びにこちらも困惑してしまうが、ここで話の腰を折るのもなんなのでそのまま話を続ける。
「あっ…えーっと、俺は産まれた時には記憶があったから、かれこれ転生してきて3年になる」
「通りで記憶の中の兄様は、赤子とは思えない聡明さを持っていたのですね…兄様も何か偉業を成し遂げて転生を?」
「いや、うーん…俺はそこまで偉業を成し遂げた訳じゃないから記憶の引き継ぎだけ…なんなら亡くなったのもこの世界での10年前の話だ」
「そうなのですか…」
風俗に行って緊張して死んだなんて口が裂けてもいえないので、この事は墓場まで持っていく所存である。
「産まれた時に記憶が戻ってしまったのは神様の手違いらしいからお詫びに転生スキルを貰ったんだが…残念ながら使い物になりそうも無くてな」
そう言って自身のスキルを使ったのだが…。
空中に画面は表示させたのだがアヤネには見えていないようで不思議な顔をしていた。
「もしかしてこれ見えない?」
「兄様が手を動かしているのは見えるのですが他は何も見えないです」
どうやらこれは他人には見えないようだ。
それはそれで便利なようで不便でもある。
「見えないなら仕方ないか…通販サイトを自由に使えるスキルなんだけど現代日本では、ちょっと役に立たないかなぁ」
「そうなんですね…私は以前の世界で使えてた魔法なんかをそのまま戻して貰えました」
勇者というのがどれほどの強さなのかは、想像もつかないのだが…。
恐らくとんでもない強さを持ってる事は、先程の強化魔法からも分かる。
「一つ確認しておきたいんだが、何かしたい事はあるか?」
元の記憶と力を持って転生している以上、このまま子供として幼少期を過ごす必要はない。
その気になれば1人で世界征服も出来てしまうかもしれない。
だからこそ、何がしたいのか確認しておきたかった。
「えーっと…私は幼少期から勇者として教育を受けて普通の人としての生活をしてこなかったので…」
やはり世界を渡るほどの功績を上げようと思うと並々ならぬ努力が必要のようだ。
「普通の人の一生を歩めればなと思ってます…」
と彼女はそう言った。
彼女ほどの力を持っているのであれば大人としてその力を活かして大成させてあげようと考えても良かったのかもしれない。
実際、彼女はこちらの世界の知識には疎く自分がどれほどこの世界で異質な存在なのかをまだ理解していない。
彼女の為を思うならその力を思う存分に奮ってもらう事も一つの幸せなのかもしれない。
しかし、彼女が普通の人生を歩みたいというのであればそれを叶えてあげたいと俺は思ってしまった。
「そうか、それが願いだっていうなら叶えさせてやるよ」
「いいのですか…?」
もしかしたら反対されると思っていたのかもしれない。
恐らくこれまでは他人に言われるがままに人生を歩み、そして死んだ彼女にとって自身の考えが認められるとは思っていなかったのかも知れない。
「ああ、兄妹として産まれたのも何かの縁だ!全力で普通の人生を歩ませてやるよ」
俺の言葉に感極まったように目に涙を溜めて…
「ありがとう!兄様!」
といって俺に抱きついてきた。
抱きつかれた衝撃は3歳児とは思えぬパワーで強化魔法をかけられてなければ吹っ飛んでいたかもしれない。
まずは力の使い方から教える必要がありそうだ。
転生神サマside
「普通は転生者同士はあまり会うことはないように離して転生してるんだが…どんな運命のいたずらか兄妹になってしまうとはね」
後でこじれるよりも先に教えておいた方が良いだろうと彼女には伝えておいたのだがこれはこれで面白い事になりそうだ。
しばらくは退屈せずに済みそうだ。
転生するような人間も少ない昨今、転生者同士の組み合わせというのは実に興味をそそる観察対象だと思い静かに見守る事にした。




