第26話 金
あちらから売って欲しいと言い出してきた。
まぁここまでは想定通りである。
ホントは1日おいて、もう少し街の実態を調べてもよかったのだが、調査の方はすでに街の様子も含めて夜のうちに終了している。
宿に塩を少し卸す事で女将さんが詳しく教えてくれていたからである。
治世に関しては容姿の優れた者は厚遇されるか、国王の目に止まれば謙譲されてしまうそうだが国王は基本的に外に出てこないのでそれは稀らしい。
しかし、厚遇された者は国から美しくない者は冷遇して良いとされているらしく、まともな就職も出来ず路上暮らしをしている人間が多いそうだ。
他の国に行こうにも結界の外は危険な魔物が跋扈しており、国を超えるには非常に難しいそうだ。
定期的に国家間を移動する為の使者に同行する形で商人が行き来しているそうだ。
「閉鎖的この上ないわね」
「まぁそれは非常に助かりますけどね。それに次の交流までは2ヶ月位あるみたいですし」
四英雄を落とす為の仕込みには時間がかかるので、交流頻度が低いのは助かっていた。
そういう訳ですぐに商談を持ちかけた訳だが、思った以上の食いつきであった。
「それは、貴重な漂流物でして…さすがにお売りするのは…」
「もちろん貴重な品なのは重々承知なのですが…この美しい白は恐らく再現するのは不可能です…」
この国では白は最も美しい色とされており、便器の色を大変気に入ったようだ。
「いくらでもお支払いします…制作費等も我々がすべて負担します。出来上がった物を優先してそちらに差し上げますので…何卒」
と必死な形相で頭を下げながら頼んでくる。
ここでエルナに合図を送る。
「そこまで言うなら分かりました。それは金貨1000枚でも良いと言う事でしょうか?」
「せ、ん…金貨1000枚でも構いませんどうか…」
「では、そちらは1000枚でお売りしましょう。ただ、条件があります…」
「それは…一体」
恐らく無理難題をふっかけられると身構えているようだが、逆だ。
「我々は旅の商人、それほどの金貨を貰っても扱いきれません。食料品や工芸品、後は魔石に金貨50枚を変えて頂きたいです」
「なるほど、物にして欲しいと言うことですか」
「はい、それと残りの950枚のうち100枚を本日頂き、残りは後日塩をお持ちした時にまた100枚という形でお支払い頂ければ助かります」
この要求に関しては向こうもポカンとした表情を浮かべていた。
現状のこの国の状況では、恐らく正式な契約を交わしたとしても、双方の力が拮抗していなければ何の意味も成さない。
最悪の場合、相手を排除してしまえば終わりである。
だからこそのこの不平等な契約である。
こちらの利を極端まで減らす事で相手にはリスクを冒す必要をなくさせる。
何事も命大事にである。
「こちらとしては願ってもない、すぐに用意します。おい、お前すぐに金貨を」
「後は、こちらを頂ければ助かります。拠点からの買い出しのリストでして…残りの分はすべて魔石でお願いします」
事前に書いておいたリストを差し出す。
「なるほど、これでしたら金貨5枚ほどで揃いますが残りは全部魔石で宜しいのですか?」
「はい、よろしくお願いします」
「おい、これもすぐに用意しろ」
一番欲しかったのはこの魔石である。
魔法の媒介になる石で魔物は誰しも持っているそうだ。
魔石自体が魔力を持っており魔法を使う際の触媒にも使用する。
この世界では科学燃料の代わりとしても使われているようで、需要も高い。
しかしこの国では職につけない者の貴重な収入源となっているそうで、それなりの在庫を保有している。
一番保有しているのは、イーステッドなのだがあそこは下手に近づきたくないので後回しである。
そうこうしてる内に、職人達がよび集められたようでトイレの説明をエルナが行った。
あれこれ聞かれているが、詳しい技術書を書いた時に詳細は、把握しているのでその説明に淀みはない。
結果的にこの世界用に書いた技術書も一緒に提供した。
「制作に役立ててください」
と渡した時は、神で見たかのような対応だった。
これで種まきは、終わった。
翌日にはすべての商品が揃い台車に乗せて街を出た。
「ああ、もったいないなぁ金貨850枚、いや853枚か…」
「いいんすよ、貰った商品と金貨でこっちの世界に来てから使ったお金より余裕でプラスですからね」
金貨157枚を向こうの世界で捌けば1億円を超えるのだ。
意味がわからない。
「こっちの世界って金は普通に取れるんですか?」
「そこらへんの山掘れば出るわよ金なんか」
と言われた時は目ん玉が飛び出るかと思った
まぁ掘る為の山自体が危険地帯なので掘るのは大変らしいが、見える山のほとんどに金鉱があるらしい。
これを聞いた時はほんとに驚いた。
なぜ一番価値の高いお金に使われているのかという理由が魔法でコーティングがしやすく偽造防止、硬度、入手量が優れているかららしい。
銀貨、銅貨、鉛貨もあるが銀は魔法のコーティングは可能だが、硬度が不十分。
銅貨はそもそも魔法コーティングが出来ない。
鉛貨も同様という事で金が採用されているそうだ。
まぁなのでその気になれば山を掘ればいいかもしれないが…逆にそんな金を見つけても売るのに困るので、そちらはどうにも困った時だけにするつもりである。
そもそもエルナだけに戦ってもらう事になり、危険を冒させるのは正直気が進まない。
「そろそろ良いわね」
「街からはかなり離れましたね…ご苦労様でした」
先ほどから荷馬車を俺が運んでいるかのように見せかけていたが、実際の所はエルナが魔法で動かしていた。
「こんな偽装いるの?」
「念のためですよ、凄い魔法使いがきたと思われるより力の強い従者を連れた商人なら気づかれないでしょう」
「まぁ、確かにそうね」
そして林に入り魔法陣を描き、エルナが転移魔法を起動した。
「今回は荷物が多かったから大分魔力を消費したわ」
「まぁ、魔石もたくさん貰えましたしこれでなんとか」
「まぁそうね」
転移魔法を使うにあたって魔力の補填をする為に魔石を買い込んだ…という訳では無いのだが…結果オーライである。
「はぁ…しかし1日だけとは言えトイレと風呂があれは辛かったわ…」
「もう毒されすぎですよ。それに数日は髪はシャンプーとリンスを使わないように言ってたのに使ってたでしょ」
この世界にないシャンプーとリンスの匂いをさせる訳にはいかないと思い、数日前から使わずに我慢していたというのに彼女の頭からほのかに匂いが漂っていた。
「うぅ…だってこれやるのとやらないのでは髪が…」
「まぁ気づかれてたとしても、もういいんですけど…今度潜入する時は気をつけてくださいよ」
「とりあえず、すぐお風呂入りましょう!それにご飯よ、昨日はあんな味気のないもの食べたんだから今日は豪勢にいきましょう!」
やはり完全にこの生活に毒されてしまったようだ。
今後、もし俺がいなくなった場合は大丈夫だろうか…と少し不安に思っていた。




