第25話 商談
翌日は、昼頃から街に繰り出す。
市と呼ぶには賑やかさに欠けるがそれなりに店も出ていて人通りも多かった。
宿の主人に聞いた所、この街で一番大きい商会は、ドルンド商会というらしくこの国の御用商人手広く他の国にも商品を卸しているそうだ。
それは都合が良いと思いその商会へと向かう。
「何か御用ですか?」
いかつい男2人に商会の門の前で止められてしまった。
「大量の塩を手に入れたので売りたいのですが…」
とエルナが話しかける。
「なるほど塩ですか、一見しても」
と言われたのでカバンから塩を取り出して見せる。
「おお、えらく質が良い塩だな。わかった取り次ごう」
そういって男1人は屋敷の家の中に入っていった。
この世界の塩は、岩塩がほとんどで白い塩は高級品扱いらしく市販で売っている1袋の塩でも大量扱いらしい。
数分待たされた後に中に案内される。
家の中に入ると絨毯のようなものが飾られており、あれは敷くものではと思ったが、そういえばそんな文化だったかと思い直し豪華な部屋に案内された。
「これはこれは、どうも」
と非常に万人が見たら9割が美形と答えるであろう商会長なのだろうか、この時代では綺麗な衣服に身を包んだ男がこちらを出迎えた。
「ワタクシは商会長を務めるドルンドと申します。以後お見知りおきを」
いきなりトップが登場という事はやはり塩の重要度はかなり高いようだ。
「私の名前はシャル、こっちは従者のアルです」
俺とエルナも相手に従って頭を下げる。
「どうぞ、そちらにおかけください」
と着席を促される。
豪華な装飾をされた木製の椅子であった。
「上質な塩をお持ち頂けたとの事で…」
「はい、どうぞお確かめください」
カバンから出した塩を差し出す。
「これは、素晴らしい塩ですね。不純物も何もない純白の塩」
あちらの世界だと実際岩塩とかで不純物が混じっている方が高価だったりするのだが、こちらの世界では海が危険地帯のせいで純白の塩は取りにくいそうだ。
「こちらをお売り頂けるということでよろしいでしょうか?」
「そのつもりです」
「なるほど…こちらは定期的に卸してもらえたりするのでしょうか?」
「そちらのお値段次第ですね」
塩相場なんて知らない俺では交渉は無理なのでこの辺はすべてエルナに丸投げである。
「なかなか…おい、秤を」
そうドルンドが指示を飛ばすと小間使いの男が持ってくる。
机の上に置かれた秤にドルンドが袋を乗せる。
そして重りを乗せて重さを計っていく。
「5kgですか…うーん」
「いかがでしょう」
「金貨10枚でいかがでしょうか」
一袋数百円の塩が実質500万以上に化けた。
生活実体が違い過ぎて正直お金に関しては価値が掴みにくい。
ただこの金貨ほぼ不純物なしの金が使われているそうで1枚が30g、それが10枚なのであちらの世界に売れば金としての価値だけで500万以上になる。
非常に助かる。
さて商売としてはこれだけで充分なのだが、こちらは商売をしにきた訳では無い。
ここからさらに踏み込む必要があった。
「その価格でしたら定期的に卸してもいいわね」
「本当ですか!ありがとうございます。おいすぐにお持ちしろ」
ドルンドが指示を出して金貨を持ってくる。
そして金貨を10枚をこちらへと差し出す。
さてここからが本題である。
「今回は7枚でいいわ、次回来た時に残りの3枚を上乗せで頂ける?」
「よろしいのですか?」
「ええ、代わりにと言ってはなんだけど職人を紹介してもらえないかしら」
「職人ですか…?」
「作ってもらいたいものがあって、さすがにどこの紹介もなく行っても門前払いでしょう?」
「なるほど、ちなみにどんなものを?」
「明日実物と資料をお持ちするので、何人か職人を集めておいてもらえると助かります」
「そういう事でしたら…出来れば実物を先に見せて頂くわけにはいきませんか?その方が声をかける職人を選定出来ますので」
「わかりました。一度宿に取りに戻りますので少しお待ち頂けますか?」
そういって7枚の金貨だけを貰って館を後にした。
「ほんとに良かったの?値下げして」
「いいんですよ。定期的に卸す約束はしてないですし、信用も後ろ盾もない状態で稼いでも食いつぶされますから」
ここで10枚の金貨を貰うより今度持ってきた時にと伝える事で、実質3枚分の貸しを作った事になる。
あちらとしては俺達が二度と現れなくても3枚分の金貨を得をして、もし現れればそれ以上の利益が生まれる。
そうしておくことでいらぬ野心を抱かせず、次の取引まで待とうという気にさせた訳だ。
「こうしておけば、他の商会に塩を取られる危険性もなくなりますからね」
もしあそこで10枚を受け取ってしまえば、実質俺達とあそこの商会の繋がりはなくなってしまう。
「なるほど、向こうとしては3枚の金貨を預かっているのだから他の商会に持ち込む心配はないという保険にもなるわけね」
「そういうことです」
さて宿に向かい無駄に借りておいた馬房に向かい、そこで受け取っていなかったトイレを受け取る。
「これって運べます?」
「これくらいならお安い御用よ」
エルナに魔法で持ち上げてもらい、それを俺が運んでいるように見せかける。
そしてそのまま館へと向かう。
力のある従者をつれているというのを見せると共に、エルナが魔法を使えるのを隠す目的がある。
館への道すがら他の住人達にもこの奇怪な物体を見せる事で注目を集める。
そして、門の前に到着してそれを降ろした。
「これは、一体なんですか!?」
「見てもらえればわかりますので部屋まで運んで頂けますか?」
驚いた様子の門番に頼み今度は部屋まで運んでもらう。
「すぐにお持ち頂けたようでありがとうございます…それでこれは一体」
先ほどと同じ部屋に運んできた仮説トイレの前で、当然の質問をされる。
「海からの漂流物でして子細は不明ですが、簡単に言えばトイレです」
不思議な物は、基本的に海からの漂流物と言っておけば、突っ込まれはしないそうだ。
それが特に奇怪なものであればあるほど信憑性があがる。
「これがトイレ?」
「そこが扉になっておりまして」
とエルナが言いながら俺が扉をあける。
「そこに座り用を足せるようになっています」
扉をあけた先に現れた真っ白いトイレに完全に目を丸くしていた。
「この美しい椅子がトイレ!?」
白く輝く便器にいたく感動しているようだった。
「そこのタンクに水を溜めておき用を足した後に、そちらの銀色のレバーをひねると水が流れてこちらのタンクへと汚物が移動します」
「なるほど…」
こちらの質問を興味深々といった感じで聞き入っているドルンドだったが…。
「そちらのタンクへスライムを入れておけば、自動で処理されるので常に清潔に使えると思います」
なにやら考え込んでいるようで反応が薄い。
「いかがでしょう、これを作れる職人を探しているのですが…」
「こちらの外の箱のような物は何で出来ているのでしょうか?」
とプラスチックで出来ている扉などを触りながら聞いてくる。
「そこはあくまでも外見で同じ素材で作る必要はありませんので、木材などで代用できるかと」
「しかしこちらの椅子の再現は…」
「一応、これを詳細に調べた書物もありますので制作を受けてもらえる方に一緒に預ける予定です」
「なるほど…」
なにやらブツブツ呟きながら部下を呼び指示をしている。
「うちの職人連中をすぐに呼び出しますが、その前に商談をしてもいいでしょうか?」
そう言われて先ほどと同じように椅子に腰掛けて商談を始める。
「こちらの品は、制作期間中はこちらに預けてもらえるという事でしょうか?」
「制作依頼を受けてもらえるという人に預けようと思っていましたが、こちらの商会で取り扱いしてもらえると言うことでしょうか?」
「こちらの品は、我が商会で責任を持ってお預かりし、商会の抱えてる職人を総動員して制作に当たらせてもらおうと考えております」
「そこまでして頂けるとは、有難いです。ちなみに制作料の相談なのですが…」
「制作料についてなのですがこちらの品を我が商会に売って頂くというのは可能でしょうか?」
よし食いついた。
これで目的についてはほぼ達成された。
後は、勝手に踊ってもらうだけである。




