第11話 アリナ
勇者と四英雄の活躍で魔王を倒した所までは良かったのだが、その後の結末はハッピーエンドとはいかなかったようだ。
まぁそもそも勇者が犠牲になっている以上ハッピーエンドとは言い難い訳だが。
「魔王を倒しその因子を手に入れた4人の英雄はさらに強くなり普通の人間では叶わない存在にまでなってしまった」
「ん?えーっと因子っていうのは?」
「あ、ごめんなさいね。この世界では魔物を倒すとその因子が身体に取り込まれて強くなれるの」
「なるほど…」
どうやらレベルアップと同じような現象と考えてよさそうである。
「そして元々各国から選りすぐられた彼らは祖国へと帰っていった」
「4人でいようとは考えなかったのですね」
「元々我が強い傾向があったのと脅威が取り除かれた事で4人でいる必要がなかったのでしょうね…そして祖国に戻った彼らは国を乗っ取った」
当然の帰結ではあった。
この文化水準では、恐らくこの4人を制御することなど叶わないだろう。
圧倒的な力を持った魔王がいなくなった今、1人の暴走止める存在は他の3人英雄しかいない。
それが一斉に蜂起したとなれば成すすべはない。
「それで収まればよかったのだけれど…彼らはある存在に目をつけた」
「すでにかなりきな臭い展開なんですがここからさらに悪化するんですか?」
「ええ、こんなものはまだまだ序の口よ。三賢者の1人であり、そして竜人族でもあるドランに目をつけたのよ」
先ほども名前が上がっていた方だったと記憶しているが竜人族という種族だったようだ。
知らない単語が何度か出てきているがエルナとしては常識として話しているので気付いていないかもしれない。
その辺りは、記憶して後で尋ねようと思う。
「ドランの生き血は、身体を癒やし勇者パーティへの回復手段として提供されていたの…それに目をつけた四英雄はドランを殺害し身体を食し不老という存在に成った」
「それは…なんというか…」
「元々、竜人族はこの不老という特性を得る為に惨殺された過去があるの…魔王との戦いの為に自身の種族をばらした事が、裏目に出た結果となってしまった」
すでに四英雄の評価が0を通り越してマイナスに突入しているのだが…どうやら話はまだ終わりではないようだ。
「不老の存在となった四人は、国に戻り支配領域を広げていった」
四英雄がいない国を滅ぼしそこを領土とし好き勝手に世界を荒らし回ったそうだ。
「元々、食料の都合で国力が落ちていたという面もあったのだけどそれを踏まえても4人の強さは圧倒的過ぎたの」
結果として数年で四人の国以外の国はなくなり、世界は4国に分断されたようだ。
そして互いに不干渉条約を結び互いの国には手を出さない事になったようだ。
「まぁ、同じだけの力を持つ存在にちょっかいをかける旨味は少ないですからね」
「そこは彼らも考えていたみたいね。ただ、そこから彼らはさらなる禁忌へと手を出したの」
おいおい、待ってくれすでに不老の独裁王とかいう糞みたいな存在なのにそこからさらに何かするのか…。
「この世界には禁忌とされる技術がいくつも存在する。そしてその内容は各国にて厳重に管理されていた…しかし、四英雄はその技術を解放した」
・隷属魔法
他者を隷属させ支配する魔法
・魔物交配技術
魔物を交配させる技術
・魔植物
魔物と同じように様々な特性を持った植物の種
・死霊術
死者の肉体を操り支配する術
「聞いた限りでかなりやばい技術に見えるのですが…」
「どれも禁忌とされるには理由があるのだけれど彼らはその技術を使い国を人々を苦しめています」
隷属魔法で人々を支配し奴隷のように扱ったり…。
魔物交配技術によって凶悪な魔物を産み出し人々を襲わせたり…
魔植物を繁殖させ自身の為に人々を犠牲にしたり…
死霊術によって死者を呼び出し冒涜したり…
とエルナがその技術の危険性と共に何が行われているのかを説明してくれた。
「この世界は四英雄の大きな実験場としての価値しか残っていません…魔王によって滅びに向かっていた時は人類が団結していたというのに…すでにこの世界は詰んでいるのです」
とエルナはここまでの話を総括してこの世界を実験場と言い放った。
恐らく四英雄も人間を遊び道具位にしか思っておらず、そこには秩序は存在せず世界の在り方としてはすでに崩壊している。
「それでこんな状況でエルナさんが狙われてる理由は?」
「私が持ってる魔法技術でしょうね…彼らには多くを教えましたが、魔道具を含め私にしか作れないものやできない事も多いの」
「そういう理由でしたか…」
「まぁここまで話しておいてあれだけどこんな世界にいるべきではないわ…帰る手段を探すなら強力を惜しまないわ、なんなら一緒に私を連れてって欲しい位」
そう、聞いた限りこの世界にいる理由は存在しない。
定番の異世界転移よろしく面白おかしく暮らすにしても地盤が腐りすぎている。
諦めて帰る手段を模索するのが一番なのはわかっている。
それでも一つ気になっていることがあった。
「もう一つ聞いてもいいですか?」
「ええ、私に答えられることなら」
「亡くなった勇者の名前を聞いてもいいですか?」
「…アリナ、どう変換されているか分からないけどこの世界では願いという意味の名前を持つ少女…彼女がもし生きていればこんな事にはならなかったでしょうね…」
少しの沈黙の後に、何かを想うように口にしたその名はアリナ。
ここまで話を聞いてる最中にある昔話を思い出していた。
「そういえば、どんな世界だったんだ?アヤネがいた世界って」
「うーん、魔王のせいで食べるものもなくて、戦争で人がいっぱい死んで滅びかけてた世界かなぁ」
「なんだその地獄みたいな世界」
「ああ、そんな言い方ひどいよ。良いところもあったんだよ、自然は多いし空気も美味しいそれに皆生きるために協力して必死に助け合ってたもん」
そう語ったアヤネは、とてもいい顔をしていた。
「だけど死んじゃったんだろ」
「ほんとは生きて魔王のいなくなった世界を見たかったんけど、私のおかげで皆が平和で幸せに暮らせるならいいかって今でも悔やんでないよ」
と笑顔で言い放った、アヤネに俺は尊敬すら抱いていた。
「ちなみになんて名前だったんだその立派な勇者様は」
「ちょっと恥ずかしいな…アリナ、幸せを願ってつけられた名前だよ」
そう、この世界はアヤネが必死に生きて命を賭けて守った世界。
これほどまでの理不尽な事があって良いのだろうか…。
人の功績の上に立ち、好き勝手に振る舞い他者を冒涜する…そんな事がまかり通って良い訳がない。
俺の大切な人の想いを踏みにじったその報いを受けさせてやる。
彼女の愛したこの世界をこのままにする訳にはいかない。
この世界を…彼女の愛した世界を取り戻す…俺はそう心に決めた。




