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「男子が2割の世界で普通にしてたら、どうやら大問題らしい」   作者: ゆう
5章

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第9話「友達の翌日」

第9話「友達の翌日」


翌朝の廊下。

いつも通りの喧騒と、いつも通りの好奇の視線。

人混みをぬって歩いていると、前方から澪が歩いてきた。

完璧な所作。凛とした表情。

でも、俺と目が合った瞬間、彼女はとてとてと歩調を緩めた。

「……っ、おはようございます」

澪が小さく頭を下げる。

周囲の女子たちが、俺たちを交互に見る。

「おはようございます」

俺も挨拶を返す。

(いつもと同じだな)

彼女の立ち姿も、表情も、昨日までと何も変わっていない。

なのに、胸の奥がなんだかむず痒い。

(でも、……少しだけ、違う気がする)

澪は一瞬だけ俺を見てから、ふわりとスカートを揺らして通り過ぎる。

たったそれだけのことが、妙に新鮮で心に残った。


昼休み。

生徒会室の廊下を歩いていると、ちょうどドアが開いた。

出てきた澪と、ばったり鉢合わせ。

「……ゆうさん」

彼女は驚いたように、ぴょこんと目を丸くした。

「澪さん、昼は?」

俺がたずねると、彼女はきょとんとした後、困ったように眉を下げる。

「……生徒会室で、一人で……ですが。なにか、ご用ですか?」

(誘い待ちか?)

この世界では、男子から誘うのは「許可」に近い意味を持つらしい。

俺は構わず、いつもの調子で切り出す。

「一緒に食べますか」

澪の動きが、ぴたりと止まる。

まるで時間が凍りついたみたいに、彼女は固まった。

(あ、また固まった)

「……っ、生徒会室で、ですかっ?」

「どこでもいいですけど」

「……っ。では、生徒会室で」

彼女は慌ててペコリと頷く。

頬が、昨日と同じようにほんのりと桜色に染まっていた。

生徒会室に入ると、昼の静寂が迎えてくれる。

机に弁当を広げて、もぐもぐと食べる。

(この世界だと「友達」って、重罪に近い関係性だよな)

国家管理の希少資源と、名家の令嬢。

二人で昼飯を食うだけで、革命的な何かが起きていそうだ。

(でも、まあ)

彼女が箸を止めて、照れくさそうにこちらを盗み見る。

その表情は、どこにでもいる普通の女の子だ。

(前世の感覚でいいや。……友達って、こういう感じか)

「友達」という言葉を盾にすれば、この過剰な世界も少しは風通しが良くなる。

俺は自然体でいればいい。

それが、この狂った世界に対する俺なりの反抗だ。


放課後。

俺は帰宅の途についていた。

玄関で迎えてくれたことみが、俺の顔を見るなり不思議そうに首を傾げる。

「なんか、顔つきが変わった?」

「そうかな」

「うん。……いいことでもあった?」

ことみの問いかけに、俺は少しだけ考える。

「友達ができたんだ」

俺の言葉を聞いて、ことみが少し固まった。

手に持っていたスリッパが、ことりと床に落ちる。

「……本当に?」

「本当に」

ことみの目が、驚きでまんまるになる。

彼女は俺の顔を、じっと穴が開くほど見つめる。

やがて、彼女の口元がふにゃりと緩んだ。

「よかったね」

ことみがふふっと笑った。

その笑顔は、いつものように穏やかで、日だまりみたいに温かい。

「どんな人?」

「……白河さんだよ」

俺が言うと、ことみはぱちくりと瞬きをした。

この世界で「白河」という名がどれほどのものか、彼女も知っているはずだ。

「へえ、白河さんか。……ゆうらしいね」

ことみはもう一度にっこりと笑うと、俺の弁当箱を受け取ってくれた。

「友達、大事にね」

「ああ」

玄関の明かりが、ことみの背中を優しく照らしている。

俺は小さく息を吐いた。

(友達の翌日、か)

昨日までの「ただのクラスメイト」から「友達」へ。

たったそれだけの関係性の変化が、この窮屈な世界の空気を、少しだけ軽くした。

(なんか、悪くないな)

俺は少しだけ口角を上げて、そのまま靴を脱ぎ、家の中へと歩き出した。

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