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「男子が2割の世界で普通にしてたら、どうやら大問題らしい」   作者: ゆう
5章

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第10話「白河家からの圧」

第10話「白河家からの圧」


放課後の生徒会室。

澪が書類を整理する手が、少しだけぎこちない。

ペンの配置。

紙の角。

いつもの完璧な所作に、わずかな揺らぎがある。

「どうかしましたか」

俺が声をかけると、彼女はハッとして顔を上げた。

「……いいえ。なんでもありません」

(嘘だな)

いつもの澄ました表情だ。

でも、瞳の奥に、さざ波のような不安が隠れている。

俺にバレまいと、必死に隠しているようだ。

(聞くべきか)

この世界で、相手の領域に踏み込むのは危険だ。

特に澪のような家柄の人間なら、なおさら。

「そうですか」

俺はあえて、それ以上は聞かなかった。


校門までの帰り道。

夕暮れの風が、少し冷たくなっていた。

「崎山」

後ろから、田辺が追いついてきた。

あいつは無口だ。

だからこそ、あいつが話しかけてくるときは、何かある。

「なんだ」

「白河家が動いたらしい」

田辺が前を向いたまま言った。

その顔には、いつもの無関心さが消えている。

「何が」

「……澪さんが、お前と仲良くしてることだ」

(そうか)

俺と澪。

その小さな関係性が、白河家という巨大な権力のレーダーに引っかかった。

「まずいか」

俺は足を止めた。

田辺も歩みを止める。

「澪さんにとっては、まずいかもしれない」

あいつは、そう言ってから短くため息をついた。

この世界で、男子と女子が交友を持つ。

それは、管理と保護のシステムへの挑戦に等しい。

「お前は大丈夫だろうよ」

「俺は?」

「お前は、まだ『ランク』が低いからな」

(ランクか)

あいつは自嘲気味に笑った。

あいつの顔には、摩耗した男子特有の疲労がある。

「澪さんには、お前を切り捨てる権限があるんだよ」

「……そうだな」

俺はただ、そうとしか言えなかった。


帰宅。

玄関には、ことみが待っていた。

「おかえり」

「ただいま」

ことみが俺の顔を見る。

それから、少しだけ不安そうな顔をした。

「……なんか、あった?」

「いや」

俺は靴を脱ぐ。

いつもの我が家。

でも、外の空気が、少しだけ重くなっているのを感じる。

「今日、どうだった?」

「普通だった」

「そっか」

ことみは短く答えた。

彼女は俺の顔をじっと見て、それからふわりと微笑む。

「……いいこと、あったんだね」

「まあな」

俺は自分の部屋へ向かう。

窓を開けると、夜風が吹き込んできた。

どこか遠くで、パトカーのサイレンが鳴っている。

(友達になっただけだぞ)

澪と弁当を食べただけ。

少しだけ、学校での会話が増えただけ。

この世界では、その程度のことが、どうしてこうも難しいのか。

ルールを破るつもりなんてなかった。

ただ、目の前のことを、普通にやりたかっただけなのに。

(白河家か)

澪が背負っているもの。

俺が抱え始めたもの。

それらが、じわじわと俺たちの距離を削り取っていく。

日常という名のガラス板が、ゆっくりとヒビ割れていく。

そんな気配がする。

(まずいな)

俺はベッドに倒れ込んだ。

明日は、また白河家から何かお達しがあるかもしれない。

澪が何かを言われるかもしれない。

友達になった。

それだけで、十分なはずだった。

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