第7話「登録の通知」
第7話「登録の通知」
朝、下駄箱を開けると、一通の封筒が落ちてきた。
学校のロゴが入った、事務的な茶封筒だ。
教室に入り、自分の席で中身を確認する。
『検体提供候補者 任意登録のご案内』
そんな文字が目に入った。
奨学金の給付、将来の就職における優遇措置。
そして、ランク算出のための適性検査スケジュール。
そこには、俺という個人の意思よりも、資源としての価値を測るための言葉が並んでいた。
(これが、か)
前世の記憶がある俺には、どうしても違和感がある。
だが、この世界ではこれが「成人へのステップ」なのだろう。
「……来たか」
不意に横から声がした。
田辺が、自分の机に突っ伏したまま俺の手元を見ている。
「田辺は?」
「もう出した」
(もう出したのか)
迷いはなかったんだろうか。
俺は、書類の端を指でなぞった。
「どんな感じだった」
「事務的だった。血を抜いて、数値を測って、ハンコを押す。……それだけ」
田辺が、食べ終えたパンの袋をゆっくりと、丁寧に閉じ始めた。
空気を抜き、四角く折り畳んでいく。
「……痛かったか」
「痛みなんてない。ただ、自分が人間じゃないみたいに思えるだけだ」
田辺の視線が、窓の外へと流れる。
そこには、グラウンドで体育の授業を受ける女子たちの喧騒があった。
「慣れる」
ボソリと、田辺が言った。
その言葉は、励ましでも諦めでもなく、ただの事実としてそこに置かれた。
(慣れる、か)
俺は、その三文字の重さを胃のあたりで感じた。
それは、自分という個人の形を少しずつ削り、この歪な社会の型に嵌まっていく過程のことだ。
俺は書類を丁寧に折り畳み、カバンの奥にしまった。
金属のファスナーが閉まる音が、やけに冷たく響く。
「……崎山なら、慣れる必要もないのかもな」
田辺が、閉じたパンの袋をゴミ箱へ放り投げた。
「どうかな。俺も普通に人間だしな」
俺が言うと、田辺は返事をしなかった。
(とりあえず、放課後にでもよく読んでおくか)
俺は一限目の準備を始めた。
教室の向こう側で、白河澪がこちらを一度だけ見て、すぐに目を逸らした。
彼女の視線の中に、いつもとは違う、微かな陰りが見えた気がした。




