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旅人と妖精 ㉑ 少しだけ、違った

夜。


旅人はいつも通り、先にベッドに横になる。


「先に寝る」


「うん」


妖精は少しだけ、その背中を見る。


さっきのことが、頭から離れない。


手を伸ばす。


「……ねえ」


旅人が少しだけ振り向く。


妖精は少し迷ってから言った。


「キスして」


少しの沈黙。


旅人は何も言わず、顔を寄せる。


唇が触れる。


いつもと同じはずなのに。


少しだけ、違った。


短い。


触れるだけ。


すぐに離れる。


妖精は何も言わない。


でも、胸の奥が少しだけ冷たくなる。


「……おやすみ」


旅人はそう言って、背を向けた。


妖精はその背中を見る。


さっきよりも、少し遠く感じた。


妖精は目を閉じる。


枕に顔を埋める。


少しだけ、息が乱れた。


それでも、そのまま動かなかった。


ーー


朝。


妖精の姿はなかった。


枕の横に、小さな紙が置かれている。


「うまくいくといいね」


旅人はしばらく動かなかった。


その紙を見ていた。


昨日のことを思い出す。


……少しだけ、眉が動く。


外に出る。


足は自然と、カフェの方へ向いていた。


妖精はいつも通り働いていた。


笑っている。


でも、少しだけ距離がある。


旅人は何も言わない。


ただ、いつもの場所に座る。


入口が見える席。


妖精はそれを見て、少しだけ息を吐いた。


ーー


夕方。


カフェの外。


旅人は壁にもたれていた。


入口が見える位置。


いつもと同じ場所。


妖精が出てくる。


一瞬だけ、目が合う。


少しの間。


旅人が言う。


「……帰るぞ」


妖精は少しだけ驚く。


それから、小さくうなずく。


「……うん」


二人は並んで歩き出す。


少しだけ距離がある。


でも。


離れてはいなかった。


ーー


夜。


旅人はいつも通り、先にベッドに横になる。


妖精は少しだけ、その背中を見る。


昨日よりも、少しだけ近い。


それでも。


何も言わない。


何もしない。


でも。


そのまま、眠れた。


ーー


朝。


妖精は先に目を覚ます。


隣には、旅人がいる。


少しだけ、その顔を見る。


昨日と同じはずなのに。


少しだけ、違って見えた。


「……おはよう」


小さく声をかける。


旅人が目を開ける。


「……ああ」


それだけ。


でも。


昨日より、少しだけ近かった。


ーー


「……そろそろ、この町出るか」


妖精は少しだけ間を置く。


「……いいの?」


旅人は視線を逸らさない。


「……ああ」


妖精は小さく息を吐く。


それから、そっと袖を掴んだ。


離れないように。


旅人は何も言わない。


でも、振り払わなかった。

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