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同僚と妖精(騎士編) ㉔ 来なかった

店を出た後。


足音だけが、やけに大きい。


「あいつ、マジ腹立つ……」


舌打ちする。


何なんだよ。


来るな?


会う必要ない?


……勝手に決めんな。


「……知らねぇよ」


坂道を蹴るように歩く。


もう行かねぇ。


二度と行くか。


そう思った。


女騎士の横を通り過ぎる。

ほんの一瞬だけ、足が止まりかける。


「ちょっと、待ってよ!」


走って追いかけてきた。


「何されたの?」


「……別に」


「別にって顔じゃないけど」


「……会う必要ねーだろ、だって」


吐き捨てるように言う。


「え」


「ムカつく!」


「それさ、ちゃんと話した方がよくない?」


「何を」


「……思ってること」


元同僚は、

一瞬だけ黙った。


「……ねぇよ、そんなの」


「じゃあ、もう会わないの?」


少しだけ間。


「……さあな」


ーー


「おい、妖精」


一番弟子が呼ぶ。


返事がない。


「聞いてんのか?」


妖精は、


袋を持ったまま、

動けないでいた。


扉の鈴の音だけが、


まだ耳に残っていた。


……あいつ、

怒ってた。


(……当たり前、だよね)


視界が、少し滲む。


「師匠ー、妖精、固まってます」


(……でも)


姫と手を繋いでいた、

元同僚の後ろ姿が浮かぶ。


(……これで、いい)


人間の隣には人間。


……それが、正しいんだろう。


師匠が肩を叩いてきた。


「お前、今日はもう上がっていいぞ」


「え……」


思わず顔を上げる。


師匠は、いつもの無愛想な顔のまま、

棚の方を向いていた。


「帰って寝ろ」


「……でも、まだ」


「客に泣き顔見せる気か」


妖精は、袋を置いた。


「……すみません」


「謝る暇あったら帰れ」


ぶっきらぼうな声。


でも、

追い払うようでいて、

どこかやさしかった。


妖精は小さく頭を下げる。


裏口から外に出る。


角を曲がった先で、

足が止まった。


坂の下。


元同僚がいた。


隣には、女騎士。


何か話しながら、

並んで歩いている。


元同僚の顔から、

さっきまでの怒りは、

もう消えていた。


妖精は、視線を落とす。


……そうだよね。

そう思おうとした。


あいつには、

あいつの世界がある。


俺と会えなくなったって、

どうってことない。


そう思ったのに、


胸の奥だけが、

否定していた。


ーー


翌日。


扉の鈴が鳴るたび、

肩が揺れた。


でも、


違った。


客だった。


昼になっても、

夕方になっても、


来なかった。


ーー


次の日も。


その次の日も。


来ない。


「妖精、塩パン」


「……あ」


一番弟子が呆れた声を出す。


「また焦がしてる」


「……ごめん」


師匠は何も言わず、

焦げたパンを下げた。


ーー


数日後。


扉の鈴が鳴る。


思わず顔を上げる。


知らない客だった。


胸の奥が、


静かに痛んだ。


扉の鈴が鳴るたび、

顔を上げてしまう。


……会う必要ないなんて、言った。


きっと、


もう来ない。

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