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同僚と妖精(騎士編) ㉓ もう、来るな

元同僚がパン屋の前に立つ。


少しだけ、間を置いてから扉を開けた。


カラン、と音が鳴る。


「いらっしゃいませ」


顔は上げない。


手だけが動いている。


(……何だ)


「よ」


声をかける。


一瞬だけ、手が止まった。


でも、


すぐに動き出す。


「……いらっしゃいませ」


それだけ。


目を合わせない。


パンを取る。


カウンターに置く。


「これ」


「……はい」


淡々と、袋に入れる。


会話が、続かない。


前は、


こんなんじゃなかった気がする。


少しだけ、間。


「……忙しいのか」


「うん」


短い。


それだけ。


それ以上、何も出てこない。


金を置く。


「……じゃあな」


「……ありがとうございました」


最後まで、


目は合わなかった。


外に出る。


扉が閉まる音。


そのまま、


少しだけ立ち止まる。


(……何だよ、今の)


胸の奥に、


何かが引っかかる。


嫌われた、わけじゃない。


……はずだ。


でも、


あの感じは――


(……違うだろ)


首を振る。


考えるな。


歩き出す。


それでも、


足が少しだけ、重かった。


ーー


剣の訓練中。


「おい、上の空だぞ!」


先輩の声。


木剣が肩に当たる。


「……すんません」


舌打ちする。


(……何やってんだ)


休憩に入ると、

女騎士がタオルを投げてきた。


「……サンキュ」


「何かあったの? 妖精と」


「別に」


「へえ」


……前にも、こんなことはあった。


『……話しかけるな』


妖精が急に冷たくなって。


でも、気づけば

また普通に話していた。


(……放っときゃ戻るか)


ーー


数日後。


また、パン屋の前に立つ。


カラン。


「いらっしゃいませ」


同じ声。


同じ顔。


同じ距離。


「……よ」


「……いらっしゃいませ」


変わらない。


パンを選ぶ。


金を置く。


「……じゃあな」


「ありがとうございました」


外に出る。


扉が閉まる。


(……まだか)


舌打ちする。


数日後。


また行く。


変わらない。


その次も。


変わらない。


気づけば、


何度目かも分からなかった。


(……何なんだよ)


また、パン屋の前に立つ。


カラン。


「いらっしゃいませ」


同じ声。


同じ顔。


同じ距離。


「……よ」


「……いらっしゃいませ」


変わらない。


パンを選ぶ。


カウンターに置く。


少しだけ、間。


「……あのさ」


妖精の手が止まる。


「……何」


やっと顔が上がる。


「……まだ怒ってんのか。

あの時、触ったの」


静かに落ちる沈黙。


「……そうじゃない」


「じゃあ何なんだよ」


妖精は、視線を落とした。


唇を噛む。


それでも、


言えなかった。


「……もう、来るな」


少しだけ、間。


「何で?」


来られても、困る。


「……別に、会う必要ないだろ」


元同僚は、


妖精を見たまま、


短く言った。


「……は?」


口元が、わずかに歪む。


「……何だよ、それ」


ほんの一瞬だけ、何か言いかけて、やめた。


次の瞬間、


カウンターに金を叩きつけるように置いた。


乾いた音が響く。


そのまま、


振り返らずに店を出ていった。


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