同僚と妖精(騎士編) ㉑ このくらいの距離が、丁度いい
騎士団で働く日々。
ふとしたときに、
妖精の顔が浮かぶ。
元気にやってんのかな。
――やめろ。
首を振る。
こういうのが、
ウザいんだろ。
休みの日。
気づけば、
パン屋の前に立っていた。
灯りが、ついている。
中から、
笑い声が聞こえた気がした。
……まだ、やってんのか。
足が、止まる。
扉に手をかける。
そのまま、
開けようとして――
止まる。
「……」
思い出す。
少しだけ、
距離を取ったあの顔。
「……悪かった」
小さく、呟く。
手を離す。
踵を返す。
あれから、
パン屋には行っていない。
それでいい。
――そう思い込んだ。
ーー
元同僚が、
ぱったりパン屋に来なくなった。
(……忙しいんだよね)
妖精が村で配達中。
昔の職場の仲間達とすれ違う。
「立派な騎士になったよな」
「でも昨日のアイツ、スゲー飲んでたね」
……昨日、来てたんだ。
……俺だけ、会ってない。
「いつもの女騎士連れてさ」
「どう見ても彼女だろ、あれ」
……そう、だよね。
視線を、逸らした。
「女騎士とヤった?って聞いたら……」
その先は、聞かなかった。
足が、
勝手に動いた。
店に立つ。
いつも通り。
笑う。
指先が、
震えていた。
ーー
あれから、数ヶ月経っていた。
元同僚は少しだけ足を止めた。
ほんの一瞬、迷うように。
「よ」
元同僚がパン屋に顔を出した。
選んだパンをカウンターに置く。
「……久しぶりだな」
「……うん」
少し間。
「この前は、悪かった」
「……ううん」
妖精は笑う。
でも、
どこか遠い。
「近づきすぎたよな」
「……平気」
目を逸らした。
(違うのに)
でも言わない。
元同僚が金を置く。
「……また来る」
「……うん」
笑ったまま、
頷いた。
元同僚は、店を出て行った。
……これで、
よかったはずなのに。
妖精はしばらく、
動けなかった。
ーー
店から出ると、
買ったばかりのパンを頬張る元同僚。
味が、よく分からなかった。
ーーあいつとは、
このくらいの距離が、丁度いい。
そう思うことにした。
「早くない?」
坂を下る途中、
女騎士が待っていた。
「もういいの?」
「……ああ」
余ったパンを女騎士に渡す。
「これ、くれるの?」
「……やる」
「らしくないじゃん」
「……食う気、なくなった」
「いい加減、素直になれば?」
「……何が?」
女騎士は、目を細めた。
「……ほんと、分かってないんだね」
少しだけ間。
「戻るぞ」
「はいはい」
女騎士は、小さく肩をすくめた。
ーー
ある夜。
元同僚は、姫の部屋に呼ばれた。
「しばらく、恋人のフリをしてほしいの」
「……任務ですか」
「そういうことになるわね」
少し間。
「……なんで俺なんですか」
姫は少しだけ笑う。
「タイプだから」
「……は?」
「嘘。余計なこと、しなさそうでしょ」
元同僚は少しだけ眉をひそめる。
「……他にもいるんじゃ」
「あなたがいいの」
「でも……」
「報酬は、今の倍でいいかしら」
少しだけ間。
――母親と、妹の顔が浮かんだ。
小さく、息を吐く。
「……分かりました」
「明日の朝、部屋に来て」
「……はい」




