同僚と妖精(騎士編) ⑳ もう、触らねぇから
人混みをかき分ける。
一瞬、妖精を見失いそうになる。
「待てよ!」
妖精は振り向かない。
……なんでだよ。
それでも、
足は止まらなかった。
気づけば町の中心部からずいぶん離れていた。
人通りの少ない路地裏で
ようやく妖精に追いついた。
「……何で逃げんだよ」
「……ごめん」
一歩、近づく。
妖精が後ずさった。
「……何かしたか?」
ハッとする。
さっき。
「……触ったからか?」
妖精は何も言えない。
「……そんなに?」
「でも、あれは……」
言いかけて、やめた。
「……悪かった」
少しだけ間。
「もう、触らねぇから」
そう言って、
一歩、下がる。
そのまま、背を向けた。
「……じゃあな」
言ってから、
ほんの少しだけ、
足が止まりそうになる。
でも、そのまま歩いた。
妖精は手を伸ばす。
指先が、
届かなかった。
そのまま、
手を下ろした。
違うのに。
でも、
声が出なかった。
足音が、遠ざかる。
追えば間に合う距離だった。
それでも、
動けなかった。
ーー
人混みに紛れながら。
さっきの顔が、頭から離れない。
……何なんだよ。
胸の奥が、
うまく収まらなかった。
そんなに、
人間に触られんのが嫌だったのか。
足が、止まりかける。
……いや。
あいつ、
「慣れてる」って言ってたよな。
じゃあ、
――俺だからか。
……近づきすぎたか。
……ウザかったか。
……いつからだ。
姫の護衛に戻る。
女騎士が近寄ってきた。
「デートできた?」
「……そんなんじゃねーよ」
「あの子に会いに行ったんじゃないの?」
「……アイツとは、そんなんじゃない」
少しだけ間。
「ただの、昔の仲間……だろ」
――それなのに、
どこか、しっくりこなかった。
「ふーん」
女騎士は、軽く笑う。
「ずいぶん、仲間思いなんだね」
「……もう、やめる」
「え?」
「……嫌だったみてぇだ」
女騎士は、少しだけ眉をひそめた。
「さぁ、仕事仕事」
笑う。
けど、
その笑いは、
少しだけぎこちなかった。
ーー
妖精は人混みの中を力無く歩いた。
嬉しかったのに。
『もう、触らねぇから』
頭の中で、
繰り返される。
指先が、
まだ覚えている。
触られたことより、
触られなくなる方が、
怖かった。
指先が、
小さく震えた。
パン屋の出店が見えた。
もうほとんどパンは残っていない。
「戻りました……」
軽く会釈。
「おっせーぞ妖精!」
ムッとする一番弟子。
「すみません」
「……話せたか?」
師匠が聞く。
「いえ……」
指先の震えが、
まだ止まっていなかった。
「……そうか」
「え?あの流れで?」
「黙ってろ」
「はいはい」
ーー
祭りも終盤にさしかかり、
パン屋は店じまい。
姫は王宮へ帰る。
元同僚は、
ほんの一瞬だけ、視線が揺れた。
でも、振り返らなかった。
人混みに紛れていく背中を、
妖精は、
ただ見ていた。
(……せっかく、会いに来てくれたのに)
少しだけ、目を伏せる。
顔を上げる。
姫と元同僚。
女騎士と元同僚。
どちらも、
自然に見えた。
……これで、いい。
そう思うしかなかった。




