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同僚と妖精(騎士編) ⑱  体が、先に動いた

姫が歩き出す。


人の流れに合わせて、

護衛も動く。


別の通りへ。


人混みはさらに増えていた。


太鼓の音。

笑い声。

呼び込みの声。


視界が忙しくなる。


――なのに。


さっきの店先が、

頭から離れなかった。


気づけば、


また、

視線を探している。


……なんだよ。


一度だけ。


ほんの一瞬だけなら。


振り返る。


人混みの隙間。


さっきの場所が、見えた。


妖精が一人、

店先に立っていた。


袋をまとめている。


周りの客は、

少しだけ引いたらしい。


ぽつんとした距離。


――一人だ。


足が、止まりかける。


「どうした?」


女騎士が小さく声をかける。


「……いや」


前を向く。


姫の背中。


任務。


守るべき対象。


……わかってる。


それでも、


頭のどこかで、


さっきの光景が引っかかっていた。


人混みの向こう。


さっきの店先。


妖精は、まだそこにいた。


袋を整えている。


客は、途切れていた。


そこに、


一人の男が近づく。


軽い足取り。


笑っている。


「ねぇ」


声をかける。


妖精が顔を上げる。


「なんですか?」


男はカウンターに肘をついた。


距離が、近い。


「暇そうじゃん」


手が伸びる。


腰に触れる。


軽く。


当たり前みたいに。


妖精は、一歩だけ引いた。


ほんの少し。


でも、


避けるように。


「やめてください」


声は小さい。


でも、はっきりしていた。


男は笑う。


「いいじゃん」


「減るもんじゃないだろ?」


また手を伸ばす。


――その瞬間。


視線が、止まった。


人混みの中。


少し離れた場所。


元同僚が、立っていた。


気づいた。


何をしているかも、


考えるより先に。


胸の奥が、

ざわついた。


――騎士団の妖精は、


『何も、感じません』


そう言っていた。


でも、


目の前の妖精は、


一歩、引いた。


――違う。


足が、


一歩、動いた。


気づいたときには、

体が動いていた。


「ごめん、ちょっと頼む!」

「はぁ?お前――」

「すぐ戻る!」


返事も待たずに、走り出した。


「やめろ!」


人混みをかき分ける。


距離が縮まる。


「手ぇ離せ」


「は?」


間に割り込む。


男の腕を掴む。


そのまま、力任せに外した。


妖精の手首が、解放される。


一瞬だけ、


宙に残った手を、


そのまま引いた。


自分の方へ。


妖精の体が、ぐらりと傾く。


咄嗟に、


肩を抱き寄せた。


近い。


息が、触れそうな距離。


――離さなかった。


「何だよ、売却済みか」


舌打ちして、男は去っていく。


妖精の体が、

腕の中で小さく強張る。


息が、

少しだけ乱れていた。


妖精が、そっと顔を上げる。


近い。


離すタイミングが、わからなかった。


「……ありがとう」


「……ああ」


少しだけ間。


「……いいの?仕事」


「……戻る」


ゆっくり手が離れていく。


妖精は、

その背中を見ていた。

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