同僚と妖精(騎士編) ⑯ 好きじゃないはずなのに
夜。
布団の中で、妖精は奥さんとの会話を思い出していた。
『……好きでいて、いいんですか?』
『妖精なのに』
『……男なのに』
『いいのよ』
『それでいいの』
好きでいていい。
両思いじゃなくても。
それだけで、よかった。
肩の力が、
ふっと抜けた。
ーー
朝。
パンの焼ける匂い。
妖精は、焼き上がったパンを一つずつ棚に並べていく。
師匠が横からそれを見ていた。
「……パン並べるの、うまくなったな」
「……そうですか?」
「前はもっと、ぐちゃぐちゃだった」
「すみません」
「褒めてんだよ」
「……ありがとうございます」
少しだけ、笑った。
師匠はそれを見て、何も言わなかった。
「師匠が奥さんに惹かれたの、わかる気がしました」
「……そうか」
「優しいですよね」
「俺は別に、優しくされたい訳じゃない」
「え?」
「気づいたら一緒にいただけだ」
一番弟子が顔を出す。
「コラ妖精!手が止まってんぞ!」
「すみません!」
妖精はバタバタと動く。
師匠は工房に戻って行った。
パンを並べながら、
妖精は思った。
気づいたら、
一緒にいたって
……どういう意味だろう。
妖精には、
まだよくわからなかった。
ーー
「あの子と話できた?」
村を出て、女騎士は唐突に言った。
「……あの子?」
元同僚は首を傾げる。
「妖精」
元同僚の顔が熱くなる。
「別にっアイツとは何でもねぇよ」
「帰るの一日伸ばしたのに?」
「確認したかっただけだ」
「確認?」
「セクハラで職場辞めたっつうから、
泣いてんじゃねぇかって……」
女騎士が顔を覗き込んでくる。
「ふぅん」
「何だよ」
「好きなの?」
「違ぇって言ってんだろ」
「じゃあ何?」
元同僚は少し黙った。
「……放っとけねぇだけだ」
女騎士は少しだけ笑った。
「それ、好きって言うんだよ」
「違ぇよ」
「妖精だからって軽く扱われてんのがムカつくだけだ」
「妖精なんて皆そうでしょ」
「はぁ?」
「昔からそうじゃん」
「……まぁ、そうだけど」
「あの子だから、嫌なんでしょ」
「別に……」
「他の妖精でも気になる?」
「……」
「気にならないんだ」
「……どっちだっていいだろ」
「もうこの話は終わり!」
元同僚は走り出す。
「ちょっと、待ってよ!」
女騎士が追いかけていった。
――確かに、そうかもしれない。
アイツだから、気になる。
でも、恋じゃない。
仲間だから。
仲間だったから、
放っておけないだけだ。
……そう思っていた。
村を出たはずなのに、
気づけばまた、
あのパン屋のことを考えていた。
ーー
騎士団に戻った夜。
月一で先輩に呼ばれている妖精と廊下ですれ違った。
『あの子だから、嫌なんでしょ』
『他の妖精でも気になる?』
気づいたら、話しかけていた。
「……あのさ」
「はい」
目が合って妖精が立ち止まる。
甘い香りがした。
どこか、
作り物みたいな匂いだった。
「あんたは、嫌じゃねぇのか?」
「何がですか?」
少しだけ間。
「人間に、好き勝手抱かれんの」
妖精は小さく首を傾げた。
「……別に」
何を今さら、という顔で。
「何も、感じません」
どうせ、同じことをするくせに。
妖精は小さく笑った。
「もう、行っていいですか?」
向けられた目は、冷たかった。
「……ああ」
……違う。
あいつは、
俺を見てた。
バタバタと先輩の部屋に走っていく。
甘い香りが、
少しだけ残った。




