同僚と妖精(騎士編) ⑮ 好きでいて、いい
対等か……
仕事が終わってから、
妖精はその言葉をずっと考えていた。
「スープ、おかわりいる?」
ハッとして顔を上げる。
師匠の奥さんが微笑んでいた。
夕食中だった。
「あ、はい」
スープを注いでくれた。
「ありがとうございます」
妖精は会釈する。
奥さんみたいに、
綺麗な人間の女性だったら。
こんなに悩まないのかな。
なんて、思っていた。
「難しい顔してるね」
「……自分に、自信がなくて」
ポツリと呟く。
「私だって自信ないよ」
鍋をテーブルに置きながら、奥さんは平然と言った。
「どうしてですか?綺麗だし、優しいし、気が利くし……」
「私より綺麗な人なんて、いくらでもいるじゃない?」
「でも……」
「もう若くもないし」
妖精は言葉に詰まった。
「でもね」
「それでいいって思ってるの」
「それでいいんですか?」
「綺麗じゃなくても、優しくなくても、
もう若くなくても、それでいいって」
「……それで、いいの?」
「うん。
無理しても、続かないから」
妖精はしばらく黙っていたが、聞かずにはいられなかった。
「……怖くないんですか?」
「怖いけど……好きになるのも、嫌いになるのも相手の自由だからね」
「自由……」
「でも、私はあなたが好き。それも自由」
妖精は、少しだけ黙った。
言っていいのか、わからなかった。
「……妖精が、人間を好きになるのもですか?」
奥さんは、少しだけ驚いた顔をした。
それから、やわらかく笑った。
「好きなら好きでいいじゃない」
「でも……おもちゃなのに」
少しの沈黙。
「どうしておもちゃなの?」
妖精は、少し黙った。
「……いつも、触られて終わりで」
少し間。
「……それが、当たり前で」
それ以上、うまく言えなかった。
「寂しかった?」
「……はい」
「あなたは、愛されたかったのね」
妖精は、すぐに答えられなかった。
そんなふうに言われたのは、
初めてだった。
違う、と言おうとして、
声が出なかった。
喉の奥が、少しだけ痛くなる。
うまく、息ができなかった。
それでも、
小さく頷いた。
「……はい」
「だったら、おもちゃじゃない」
「……え?」
「心がある」
「心……」
妖精は、小さな声で繰り返した。
そんなこと、
考えたこともなかった。
「あなたには心があるのよ」
奥さんは当たり前みたいに言った。
「だから、
おもちゃじゃない」
妖精は何も言えなかった。
喉の奥が、うまく動かなかった。
少しだけ俯いて、
それから、ぽつりと聞いた。
「……だったら」
奥さんを見る。
「……好きでいて、いいんですか?」
「妖精なのに」
少しだけ黙ってから、
もう一度聞いた。
「……男なのに」
「いいのよ」
奥さんは迷わず言った。
「それでいいの」
その言葉を聞いた瞬間、
涙が頬を伝っていた。
そっと奥さんが妖精を抱きしめる。
子供にするみたいに、
背中をゆっくり撫でてくれた。
気づいたら、
声を出して泣いていた。
許された気がした。
初めて、
ここにいていいと思えた。
――そのとき。
入口のところに、
師匠が立っていた。
何も言わずに、
少しだけ安心したような顔をして。
そのまま、静かに奥へ戻っていった。
――それを、妖精は知らなかった。




