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同僚と妖精(騎士編) ⑫  仕方なくねぇだろ

「……さっきの」


「え?」


「パン屋の親父」


「ああ、師匠?」


元同僚の眉が少し動く。


「……師匠って呼んでんのか」


「うん。パン教えてもらってるの」


「……そうか」


妖精は少し迷ってから言った。


「今、師匠の家に住ませてもらってるんだ」


一瞬、間が空いた。


「……は?」


「部屋余ってるからって」


「大丈夫なのか!?」


「え?」


「一緒に住むって……」


「部屋借りてるだけだよ?」


「……手ぇ出されたりとか」


妖精は少し驚いて、それから首を振った。


「ないよ。師匠、奥さんいるし」


元同僚は少しだけ黙った。


「……そうか」


それだけ言って、視線を逸らした。


「……心配してくれたの?」


「別に」


「顔、怖かったよ」


「うるせぇ」


こんなことを言いに来たんじゃない。

元同僚は首を振った。


「あのさ……」


「開店まだ!?」


一番弟子が店から顔を出す。


「はい!今開けます」


妖精が答える。


「ごめん。もう行かなきゃ」


「休憩、何時だ?」


「13時……」


「じゃあその頃また来る」


「わかった」


ーー


 13時少し前。


 店の裏口を開けると、もういた。


 壁に寄りかかって、缶コーヒーを飲んでいる。


「早いね」


「たまたま近く通っただけ」


「うそ」


「うるせぇ」


 一本、缶コーヒーを投げてよこす。


「ほら」


「ありがとう」


 プルタブを開ける音。


 少しだけ沈黙。


「……忙しいのか」


「朝はね。今はだいぶ慣れた」


「そうか」


 また沈黙。


 でも、前より嫌な沈黙じゃない。


「……ちゃんと食ってんのか」


「まかないあるよ」


「……そうじゃなくて」


 妖精は少しだけ笑った。


「大丈夫だよ」


 元同僚は何も言わない。


 缶を握ったまま、少しだけ下を向く。


「……あのさ」


「うん」


「前の職場辞めた理由、聞いた」


 妖精は一瞬止まる。


「……そう」


 沈黙。


「何で俺に相談しないんだ?」


「……そんなの、言えないよ」


「なんでだよ」


「だって、言ったって何も変わらなかったし」


「……は?」


「上司に言っても、『気にしすぎだろ』って笑われただけ」


「……」


「だから、もういいかなって」


「……それで辞めたのか」


「うん。心配かけたくなかったし」


「本当にそれでいいのかよ」


 妖精は少しだけ考えて、


「うん」


「アイツらが好き勝手触って、得しただけじゃねーか」


 妖精は首を振った。


「妖精だから、仕方ないよ」


一瞬、何を言われたのか分からなかったみたいに、元同僚は黙った。


「……は?」


 低い声だった。


「仕方ないって、何が」


「だって、昔からだもん」

「みんなそういう目で見るし」


「だから仕方ない?」


「……うん」


 次の瞬間、ガンッと音がした。


 元同僚が、空き缶を強く握りつぶしていた。


「仕方なくねぇだろ」


 妖精は少し驚いて、目を見た。


「妖精とか、関係ねぇよ」


「でも」


「でもじゃねぇ」


 言葉を探すみたいに、一回黙る。


 それから、少しだけ視線を逸らして言った。


「……触っていい理由になんか、ならねぇだろ」


 妖精は静かに言った。


「……前に、お前はお前だって言ってくれたでしょ?」


「……ああ」


「それだけで俺、救われたんだ」


 妖精は少しだけ笑った。


「だから、いい」


 元同僚は、しばらく何も言わなかった。

 

 缶コーヒーが、ぐしゃりと音を立てた。


「……何でだよ」


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