同僚と妖精(騎士編) ⑪ 綺麗だと思ってしまった
店を出て、しばらく歩いた。
パンの匂いが、まだ残っている気がした。
(綺麗だって)
自分で言った言葉を思い出して、
何であんなこと言ったんだろうなと思った。
妖精なんて、今まで何人も見てきた。
店の妖精。
街の妖精。
騎士団に出入りしてた妖精。
でも。
昔から、綺麗な顔だとは思ってた。
けど。
アイツ、あんなに綺麗だったっけ。
あんな顔して笑ってたっけ。
前はもっと、
ガキみたいな顔してた気がする。
(……違うか)
俺が、
そう見てただけか。
笑い方とか。
困った顔とか。
目が合うとすぐ逸らすところとか。
……頭から離れなかった。
ただの作業着にエプロン姿。
なのに、妙に……
(……何考えてんだ俺)
違うだろ。
俺は、
あいつを――
そういう目で見ないって、
決めたはずだろ。
元職場の連中みたいな目で、
見たくなかったのに。
俺まで、
同じかよ。
小さく舌打ちした。
(頭冷やそ……)
そのとき。
「何やってんの、こんなとこで」
振り向くと、
女騎士が立っていた。
「……別に」
「パン屋の帰り?」
「……まぁ」
「ふーん」
「何だよ」
「いや」
「顔、分かりやすいなと思って」
「は?」
「だから村に帰って来たんだ」
「ちが……!」
女騎士は少しだけ目を細めた。
「じゃあ何で帰って来たの」
「……母さんと妹に、顔見せに来ただけだ」
「ふーん」
「何だよ」
「別に」
女騎士は少しだけ笑った。
「じゃあ、もう帰るの?」
「……いいけど」
「本当に?」
元同僚は少しだけ黙った。
それから、頭をかいた。
「……明日」
「明日、もう一日だけ時間くれ」
女騎士は小さくため息をついた。
「はいはい」
少し歩き出してから、振り向かずに言った。
「ちゃんと話して来なよ」
「……おう」
ーー
次の日。
元同僚は、またパン屋の前に立っていた。
入る理由を、
まだ考えていなかった。
パン屋の前で、しばらくウロウロしていた。
「……何してんだ」
声をかけられて振り向くと、
パン屋の親父が立っていた。
「いや、別に」
師匠は元同僚の顔をじっと見る。
「アイツに会いに来たのか?」
「……アイツ?」
「妖精だよ」
元同僚の眉がピクリと動く。
「……アンタ、アイツのことそう呼んでんのか」
師匠は少しだけ笑った。
「さあな」
「本人に聞け」
手を振って去って行く。
「おいっ」
呼び止めたが、師匠は振り返らなかった。
……何だあのオッサン。
アイツ、って何だよ。
雇い主と従業員じゃねぇのか。
それとも――
そこまで考えて、イラッとした。
何で俺が、こんなこと気にしてんだ。
仲間だろ。
それだけだろ。
……それだけのはずだ。
なのに、
胸の奥が、ずっと落ち着かなかった。
気づいたら、扉の前に立っていた。
……聞くだけだ。
それだけだ。
妖精が箒とチリトリを持って出て来る。
「あ」
元同僚に気づく。
「よ」
「どうしたの?」
「パン買いに来た」
妖精は少しだけ目を丸くした。
「……まだ戻らなくていいの?」
「……まぁ」
少しだけ沈黙が落ちる。
箒を持ったまま、妖精が立っている。
帰るわけでもなく、
中に入るわけでもなく、
元同僚も立ったままだった。




