同僚と妖精(騎士編) ⑩ そんなはず、ないのに
男が振り向く。
「何だお前」
「邪魔」
元同僚は男を一瞬見る。
「会計終わったんなら、とっととどけよ」
男は舌打ちして出て行った。
元同僚がパンをカウンターに置く。
「何なんだよ今のヤツ」
「ありがとう」
「気をつけろよな、お前綺麗なんだからさ」
金を出す。
「俺なんて、全然……」
元同僚は少し眉をひそめた。
「……綺麗だって」
目が合う。
一瞬、
時間が止まった気がした。
ハッとしてお釣りを渡す妖精。
「またな」
元同僚は店を出て行った。
妖精はしばらく動けなかった。
「見たぞ」
背後に一番弟子。
「あれが妖精の好きなヤツか」
「ちち違います!」
妖精は顔が赤くなる。
「じゃあ遊び?」
「いえ……」
首を振る。
……でも。
言葉が続かなかった。
「やっぱり好きなヤツじゃん」
「だって……その……」
「さわやかシャイボーイね」
一番弟子はニヤニヤする。
「妖精が人間に恋かぁ」
「やめてください」
妖精は小さく首を振った。
「そんなの……無理だってわかってますから」
「まぁね。人間様だからな」
「ですよね……」
「愛人ならイケるんじゃね?」
(愛人かぁ……)
一瞬、想像してしまう。
元同僚が妖精を愛人にする。
『俺はそんなの、絶対嫌だから』
思い出に寝てみない?と聞いたとき、
そう言っていた。
ないな、と思う。
でも。
(そこが、好きなんだけど)
自嘲気味に笑う。
「妖精と付き合ったことあるぞ」
師匠がパンを並べながら言う。
「本当ですか?」
「俺は別に抵抗なかった」
一番弟子が目を丸くする。
「マジで?」
「師匠、やっぱ最強」
「……でも」
妖精はぽつりと呟く。
師匠の隣に、
妖精はいないから。
「お別れしちゃったんですね……」
「まぁな」
(やっぱり――)
妖精じゃ、ダメなんだろうな。
「妖精だから別れたんじゃない」
心の声が聞こえたのかとびっくりする妖精。
「相手に好きなヤツができた」
「え……」
「俺よりいい男なんていくらでもいるしな。当時は金もなかったし」
そう言って、パンを並べる手は止まらなかった。
「……お金なんて」
「最初はそうでも、いずれ変わるさ」
最後のパンを棚に置く。
少しだけ間を置いて、
「……よくあることだ」
妖精は何も言えなかった。
胸の奥に、何かが引っかかったままだった。
そのとき。
「アイツにはアイツの考えがあるからな」
ポンと妖精の肩を叩く師匠。
「ま、頑張れよ」
その手は、あまりにも軽かった。
(……無理だって、わかってる)
それでも、
少しだけ期待してしまった。
もしかしたら。
隣にいられる日が、
来るかもしれないと。
――そんなはず、ないのに。
それでも、
今日の「またな」が、
離れなかった。




