同僚と妖精(騎士編) ⑨ 俺は触らない
夜の酒場。
元同僚は久しぶりに再会した仲間と盛り上がっていた。
「騎士様どうよ?久々の村は」
「サイコーっしょ!」
笑い声。
「元気?」
端から仲間に声をかける元同僚。
「俺がいなくて寂しかった?」
「せいせいしてた」
「ウソばっか」
昔の仲間。
昔の職場。
懐かしい仕事の話。
(居心地よかったな)
「お前いなくなってつまんねーわ」
「正直でよろしい」
元同僚は頷く。
仲間が笑う。
「……そういや、今朝妖精と会ったんだけどさ。アイツ辞めたの?」
仲間が一瞬黙る。
「……辞めた」
小さく返ってきた。
「何で?」
「知らねー」
「稼げねぇからじゃね?」
「夜の店行ってたりして」
「いや、パン屋で働いてたんだ」
元同僚が否定する。
「パン屋の方が給料低いと思うんだけど……」
また静かになる。
「何かあったのか?」
元同僚。
「アイツが悪いんだよ」
「そうそう」
「ちょっと触ったくらいで騒いでさ」
「妖精のくせにな」
「触った?」
元同僚は嫌な予感がした。
「ケツとか腰触っただけ」
「触ったんじゃなくて、当たったんだよ。たまたま」
「そうそう」
「……まさか」
信じたくないけど。
「皆、アイツ見てヤりたいとか思ってた?」
一瞬、間が空く。
「そりゃそうだろ」
「妖精だもんな」
「アイツ、エロいし」
元同僚は黙る。
グラスを持ったまま、
しばらく動かなかった。
驚きはした。
でも。
(……そりゃそうか)
分かっていたことだった。
皆、妖精をそういう目で見る。
昔から、ずっと。
だから、今さら驚くことじゃない。
ないのに。
どうしてか、
腹の奥が、少しだけ熱かった。
騎士団でも同じだった。
妖精を呼ぶ。
笑う。
触る。
ここだって同じだ。
昔から皆、
妖精の店が好きだった。
だから——
今さら驚くことじゃない。
それでも。
胸の奥がざわついた。
「アイツは仲間だろ?」
「仲間って言ったって……なぁ」
「ムラムラするんだから仕方ねぇだろ」
何を言っても無駄だった。
根本的なものが違う。
元同僚は察した。
ーー
久しぶりの実家。
布団の中で、元同僚は目を閉じた。
ショックだったろうな……アイツ。
仲間から。
あんなことされて。
「……何で」
ぽつりと呟く。
「何でだよ……」
『俺は妖精だ』
『そういうものだ』
震えていた声。
思い出すと、
今でも胸が痛む。
元同僚は目を閉じた。
「……俺は」
触らない。
胸の奥で、そっと誓った。
ーー
次の日の朝。
妖精は開店の準備をしていた。
店の前を掃く。
パンを並べる。
店を開けると、見慣れた顔が入ってきた。
妖精は肩に力が入る。
「いらっしゃいませ」
男はいつものパンを選ぶと
カウンターに置いた。
「これください」
「はい」
袋にパンを入れていると
男の視線が刺さる。
「連絡先教えてよ」
「すみません」
「何で?妖精でしょ?あんた」
「ごめんなさい……」
男は笑う。
「ケチだな」
「パン屋なんてやっててもさ」
「どうせ夜は人間と寝てんでしょ?」
妖精は目を伏せた。
「いえ……」
小さな声。
男は肩をすくめる。
「またまた」
「妖精なんて皆そうじゃん」
「俺、金払うよ?」
「おっさん」
「さっさとしてくんねぇ?」
聞き慣れた声の方を見る。
「後ろ、つかえてんだけど」
元同僚だった。
妖精は、少しだけ息を吐いた。




