同僚と妖精(騎士編) ⑧ お似合い
その日。
妖精は配達を頼まれた。
焼きたてのパンを抱えて、
町を歩く。
通りの向こうから、
騎士が二人歩いてきた。
一人は女だった。
鎧姿。
背が高い。
堂々としている。
その隣。
妖精の足が止まる。
(……え)
元同僚だった。
そして。
女の人と一緒だった。
妖精は思わず視線を逸らす。
このまま通り過ぎれば——
「よ」
声がした。
妖精の足が止まる。
振り向く。
やっぱり、元同僚だった。
「何してんの?」
妖精は少し迷ってから答えた。
「……配達」
元同僚がパンを見る。
「へぇ」
少しだけ間があく。
「パン屋?」
妖精は小さくうなずく。
「……うん」
「面白そうだな」
女騎士が聞く。
「知り合い?」
「ああ」
元同僚は軽く答える。
親しげに話す二人。
妖精の胸がざわつく。
「仕事の途中だから、行くね」
妖精が歩き出す。
「おい」
妖精が振り向く。
「今日の夜、皆で集まるんだ」
「お前も来ないか?」
皆。
その言葉で、
嫌な記憶がよみがえる。
笑い声。
いやらしい目つき。
背中に触れた手。
妖精は少しだけ目を逸らした。
「……ごめん」
「明日も朝から仕事だから」
元同僚はすぐにうなずく。
「そっか」
少し沈黙。
「どこにあんの?店」
「あっち。村の外れ」
妖精が指で示す。
元同僚はその方向を見る。
「わかった。じゃあな」
手を振って妖精を見送る。
妖精は振り返らなかった。
「妖精がパン屋なんて、珍しいわね」
女騎士が言う。
「だろ?」
元同僚は笑う。
「アイツ昔から真面目でさ」
元同僚はもう一度、妖精が歩いていった道を見る。
(元気そうだな)
ーー
まだ心臓がドキドキしている。
騎士になった元同僚。
昔より垢抜けて、
背も伸びていた。
肩幅も広くなったような。
(……カッコよかった)
妖精は小さく首を振る。
紙袋を抱え直した。
隣にいた女騎士。
背が高くて、
堂々としていた。
(彼女かな……)
騎士同士なら話も合うし、対等だ。
何より、人間同士。
同じ速さで歩いて、
同じ高さで話して、
同じ未来の話ができる。
(お似合い……)
胸がぎゅっと締まる。
(そんなの、当たり前だ)
人間は、
人間同士付き合うんだから。
自分は妖精。
最初から、
土俵にも上がれない。
妖精は歩き出す。
配達。
仕事。
それだけ考えればいい。
でも。
さっきの顔が浮かぶ。
(……何で、あんなにカッコイイんだろ)
配達が終わった後も、
浮かぶのは元同僚のことばかり。
『よ』
変わらない笑顔。
変わらない声。
それだけで、
胸が高鳴る。
離れたら、
忘れられると思ったのに。
「はぁ……」
思わずため息がもれた。
「何かあったのか?」
師匠が聞く。
「いえ、何も……」
「腹減ってんじゃね?」
一番弟子がパンを頬張りながら言う。
「これやるよ」
「俺の自信作」
いびつな形のパンを渡された。
「失敗作だろ」
師匠が突っ込む。
妖精は笑った。
「ありがとうございます」
まだ胸は少しだけ苦しい。
でも。
ここに戻ってくると、
少しだけ息がしやすかった。




