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同僚と妖精(騎士編) ⑦ 帰る場所

部屋は小さかった。


隅に段ボールがいくつも積まれている。


その横に、


布団を敷けるくらいの


わずかなスペース。


それだけだった。


でも。


屋根がある。


雨が降っても濡れない。


妖精は部屋の中を見回す。


(……ここで寝ていいんだ)


胸の奥が、少しだけ温かくなった。


夜は、奥さんの作った夕食をご馳走になった。


温かいスープ。

焼いたパン。

簡単な料理。


昼は、店で余ったパンをもらう。


それだけで十分だった。


食費は、ほとんどかからない。


妖精は少しだけ安心した。


そんな生活が、しばらく続いた。


最初は、毎日緊張していた。

いつ追い出されるのか分からなかったからだ。


でも、一週間が過ぎ、

二週間が過ぎても、


誰も、出ていけとは言わなかった。


朝は掃除。


昼は配達の手伝い。


夜は片付け。


妖精は、少しずつ工房の流れを覚えていった。


粉の場所。


道具の場所。


火の加減。


師匠が何を見ているのか。



ある朝。


師匠が言った。


「おい」


妖精が顔を上げる。


「見てろ」


師匠は生地を丸める。


台に置く。


軽く押す。


それだけだった。


「やってみろ」


妖精は戸惑う。


でも、恐る恐る手を出した。


生地はやわらかかった。


温かい。


少しだけ、生きているみたいだった。



それから。


妖精は少しずつパン作りを習い始めた。



初めて自分で焼いたパン。


まだ少し歪だった。


でも。


一口かじる。


「……おいしい」


妖精は思わず笑った。


こんなに嬉しいのは、


久しぶりだった。



ある朝。


師匠が紙を見ていた。


「……多いな」


一番弟子が覗き込む。


「うわ」


「大口?」


「祭りだ」


村の祭り。


パンを大量に納めるらしい。


一番弟子が笑う。


「三人でやるしかねぇな」


師匠は妖精を見る。


「やれるか」


妖精は少し迷った。


でも、うなずく。


「はい」



その日、工房はずっと火がついていた。


粉を量る。


生地をこねる。


丸める。


焼く。


またこねる。


また焼く。


休む暇はない。


一番弟子が叫ぶ。


「次のトレー!」


妖精が渡す。


師匠が黙って生地をこね続ける。


汗が落ちる。


でも手は止まらない。



最後のパンが焼き上がった。


外はもう夕方だった。


一番弟子が笑う。


「終わったぁ……」


師匠はパンを一つ持つ。


割る。


湯気が上がる。


一口かじる。


「……悪くねぇ」


それだけ言った。


妖精は思わず笑った。


「妖精、意外とやるじゃん」


一番弟子が笑う。


「人間に色目使うだけじゃねぇんだな」


妖精は少し固まる。


昔、何度も言われた言葉だった。


そのとき。


「余計なこと言うな」


師匠が短く言った。


一番弟子が肩をすくめる。


「はいはい」


そんな日々が、しばらく続いた。


朝、工房に来て、

掃除をして、

パンを焼く。


夜になると、

帰る場所がある。


妖精は少しずつ、

パン屋の仕事に慣れていった。


そして少しずつ、


ここにいていいのだと思えるようになった。

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