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同僚と妖精(騎士編)② 居場所がない

上司は椅子にもたれたまま言った。


「大体さ」


面倒そうな声。


「妖精なんだから」


妖精の目を見る。


「性的な目で見られるのは当たり前じゃないか」


妖精は言葉を失う。


それは、ずっと言われてきた言葉だった。


上司は肩をすくめる。


「だから普通の妖精は夜の店で働いてる」


机を指で叩く。


「なのに普通に働きたいとか言って」


少し笑う。


「どこにも行く当てがないお前を、ウチは雇ってる」


視線が冷たい。


「違うか?」


妖精は何も言えない。


反論の言葉が、出てこない。


上司は書類に目を落とす。


「仕事に戻れ」


それで終わりだった。


ーー


妖精は部屋を出た。


廊下は静かだった。


昼の光が差し込んでいる。


何も変わっていない。


でも。


胸の奥が、少しだけ冷えていた。


(……そうか)


妖精は歩き出す。


外では、いつも通り仲間たちが働いている。


丸太を運ぶ。


笑い声。


いつもの仕事。


先輩が妖精を見る。


口元がゆっくり歪む。


「何してた?」


妖精は首を振る。


「……何でもありません」


先輩が笑う。


「ふーん」


その目が、もう隠していない。


周りも見ている。


でも、誰も何も言わない。


妖精は理解する。


(……もう)


誰も止めない。


守ってくれる人もいない。


同僚がいたときとは、違う。


本当に。


違う。


ーー


その日の仕事が終わる。


夕方。


皆がロッカーに戻る。


汗の匂い。


笑い声。


妖精は一番端のロッカーを開ける。


背中に視線を感じる。


振り向く。


先輩たちが立っていた。


数人。


扉が、ゆっくり閉まる。


がちゃり。


鍵がかかる音。


「なあ」


一人が近づく。


「今日、暇だろ?」


妖精が後ずさる。


「帰ります」


腕を掴まれる。


「そんな冷たいこと言うなよ」


背中がロッカーに当たる。


逃げ場がない。


もう一人が笑う。


「金払うって言ったじゃん」


手が肩に触れる。


服の裾を掴まれる。


妖精の体が固まる。


そのとき。


――お前は、お前だ。


同僚の声が頭に浮かぶ。


妖精は思いきり腕を振り払う。


「やめてください!」


ロッカーに音が響く。


一瞬、空気が止まる。


先輩が舌打ちする。


「……チッ。面倒くせぇ」


「行こうぜ」


笑いながら出ていく。


扉が閉まる。


静かになる。


妖精はその場に座り込む。


しばらく動けなかった。


そして思う。


(……ここには、もういられない)


ーー


仕事を辞めた。


でも、妖精に新しい仕事はなかなか見つからなかった。


村の端から、店を一軒ずつ回る。


「すみません。仕事、ありませんか」


店主は妖精を見る。


そして、少し困った顔をする。


「……妖精か」


首を振る。


「悪いな」


別の店。


「妖精じゃあね……」


また別の店。


「妖精なら夜の店行けばいいじゃん」


笑いながら言われる。


「間に合ってるよ」


扉が閉まる。


妖精はまた歩き出す。


でも。


どこへ行っても、同じだった。


ーー


夜。


酒場の前を通る。


灯りが漏れている。


笑い声。


酒の匂い。


そして、見覚えのある看板。


妖精の店。


足が止まる。


扉が開く。


中から妖精が出てくる。


見慣れた服。


慣れた笑顔。


男の腕に抱きついている。


客が笑う。


妖精は、しばらくその光景を見ていた。


胸の奥が、少しだけ痛む。


思い出す。


昔の自分。


あの場所で働いていた頃。


生きていくために。


どんな人間とも寝た。


顔も覚えていない。


名前も知らない。


ただ。


朝になるまで、笑っていた。


笑っていれば、終わるから。


妖精は小さく息を吐く。


そして、歩き出す。

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