同僚と妖精(騎士編)① 不在
朝。
同僚がいなくなった畑。
妖精は一人で丸太を運ぶ。
いつも二人で持っていた重さ。
今日は少し重い。
仲間が笑う。
「騎士様いなくなって寂しいか?」
妖精は笑う。
「別に」
軽く言う。
でも。
夜。
ブランコに座る。
空を見上げる。
風が揺れる。
同僚がよく座っていた場所。
妖精は小さく呟く。
「……元気かな」
ーー
同僚がいなくなって、職場の雰囲気が少しずつ変わっていった。
妖精に触れる人が増えた。
最初は、気のせいだと思った。
たまたま、すれ違ったときに触れただけ。
そう思った。
でも。
また、尻に触れられる。
また、腰に手が当たる。
「悪い悪い」
笑いながら離れる。
そんなことが、何度も続いた。
そして。
少しずつ。
触れ方が、遠慮のないものに変わっていった。
ある日。
腰をぐっと引き寄せられる。
妖精は思わず声を上げた。
「やめてください」
「冗談だって。本気にすんなよ」
周りが笑う。
誰も止めない。
妖精だから。
前に、金を払うからヤらせてと言ってきた先輩が、ニヤニヤしながら近づいてくる。
「なあ」
低い声。
「ヤらせてくんねぇ?」
妖精の体が少し固まる。
そのとき、頭の中に同僚の言葉が浮かぶ。
――お前は、お前だ。
妖精は小さく息を吸う。
「すみません」
先輩が眉をひそめる。
「はぁ?」
「金払うって言ってんじゃん」
妖精は首を振る。
「……もう、俺」
少しだけ声が震える。
「そういうの、やめたんです」
先輩の顔が歪む。
「は?」
鼻で笑う。
「妖精だろ、お前は」
一歩近づく。
「人間様に使われるもんだろ」
妖精の手が少し握られる。
先輩が続ける。
「どうせアイツともヤってたんだろ」
口元が歪む。
「この間、騎士になるとか言って出ていったヤツ」
妖精の胸が、ぎゅっと痛む。
『俺は、他のヤツらみたいにお前を利用したくない』
同僚の言葉を思い出す。
「……してません」
小さく言う。
それでも、はっきりしていた。
そのときは、先輩も舌打ちをして引き下がった。
「……チッ。つまんねぇ」
それだけ言って、背を向ける。
妖精はほっと息を吐いた。
手が震えていた。
これで終わったと思った。
でも、違った。
それから。
先輩は妖精に触れるようになった。
仕事の最中。
丸太を支えるとき、腰に手が回る。
「ほら、ちゃんと持てよ」
耳元で言う。
すれ違いざまに、尻を触る。
「手がすべった」
笑いながら離れる。
周りも笑う。
誰も止めない。
妖精は何も言えなかった。
ただ、歯を食いしばる。
――お前は、お前だ。
同僚の言葉を思い出す。
それだけが、胸の奥で小さく灯っていた。
あいつがいると、
誰もこんなことはしなかった。
でも。
今は、違う。
あいつは、もういない。
ーー
倉庫の裏を通りかかったときだった。
声が聞こえる。
「アイツさ、妖精なんだからさっさとヤらせればいいのによ」
妖精の足が止まる。
「ほんとそれ」
「金払わなくても触れるんだから、今の方が得だろ」
笑い声。
「確かに」
妖精は動けなかった。
ーー
妖精は、勇気を出して上司に相談した。
「少し、話があるんです」
上司は机に肘をついたまま、面倒そうに顔を上げる。
「何だ」
妖精は少し迷う。
それから言った。
「……先輩に触られるんです」
上司が眉をひそめる。
「触られる?」
「仕事中に」
少し沈黙。
上司は鼻で笑う。
「気のせいじゃないか?」
妖精が目を瞬く。
「でも――」
「忙しいんだ」
上司は書類をめくる。
「そんなことで呼ぶな」
妖精の言葉が止まる。
部屋の隅に、見覚えのある札が貼ってあった。
村の妖精の店の割引札。
上司が、よく通っている店だ。
妖精はそれ以上、何も言えなかった。




