↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛されたことのない妖精は、今日も抱かれる  作者: Wataru


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/83

旅人と妖精⑮ 離れるな

帰り道。


妖精は旅人の腕に絡みついて歩く。


体をぴったり寄せる。


旅人は少しだけ眉を寄せる。


歩きづらい。


でも、ほどこうとはしない。


好きにさせておく。


妖精は満足そうに笑う。


「重いぞ」


「いいじゃん」


軽い声。


腕は離れない。


⸻


夜。


テントの中。


妖精は当然みたいに旅人の隣に潜り込む。


距離が近い。


さっきより、もっと近い。


体を押しつける。


旅人の服を掴む。


ぎゅっと。


「……おい」


妖精が顔を上げる。


少しだけ唇を尖らせる。


「キスして」


甘えた声。


旅人の呼吸が止まる。


理性が、ぐらつく。


腕の中の体温が近すぎる。


「……ダメだ」


低い声。


妖精が眉を寄せる。


「何で?」


旅人は目を閉じる。


少しだけ息を吐く。


「今日は終わり」


妖精が頬を膨らませる。


「ケチ」


旅人は苦笑する。


でも腕は離さない。


妖精はまた胸に顔を押しつける。


小さくつぶやく。


「明日は?」


旅人はしばらく黙る。


それから、


「……知らん」


妖精がくすっと笑う。


服を掴む指が、少し強くなる。


⸻


翌朝。


妖精が目を覚ましたときには、旅人は隣にいなかった。


テントの外に出る。


朝の空気が冷たい。


焚き火の前で、旅人が朝食の準備をしていた。


パンを温めている。


「起きたのか」


振り向かずに言う。


「うん」


妖精は隣に座る。


しばらくして、パンを渡される。


二人で黙って食べる。


朝の林は静かだ。


妖精は、ちらっと旅人の唇を盗み見る。


……キスしてくれた。


胸が、少しだけ熱くなる。


好きじゃなきゃ、しないよね。


パンをかじる。


抱かれてないけど。


胸が、きゅっと締まる。


でも。


大丈夫。


必要とされてる。


きっと。


自分に言い聞かせる。


旅人は何も気づかない顔で、焚き火をいじっている。


妖精は視線を落とす。


早く、夜にならないかな。


昨日したのに、


もう次の口づけが欲しくなっていた。


ーー


林を抜けると、町が見えてきた。


人口が多く、賑やかな町。


人の声。


荷車の音。


通りには店が並び、客引きが声を張り上げている。


旅人は背が高いので、よく目立つ。


「お兄さん、いい服あるよ!」


「お兄さん、今夜の宿は決まった?」


「うち寄っていきなよ!」


次々に声が飛ぶ。


妖精がきょろきょろする。


「すごい人気……」


旅人は眉をひそめる。


人が多い。


距離が近い。


妖精が少し後ろに下がる。


その瞬間。


旅人が妖精の腕を引く。


ぐっと。


自分の横に引き寄せる。


「離れるな」


低い声。


妖精が目を瞬く。


「うん」


素直に頷く。


旅人のすぐ隣を歩く。


人波が流れる。


妖精はちらっと旅人を見る。


腕は、まだ掴まれたままだ。


少しだけ胸が温かくなる。


「……迷子になりそう?」


妖精が小さく言う。


旅人は前を見たまま答える。


「お前がな」


妖精がくすっと笑う。


でも、腕は離さない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。