旅人と妖精⑮ 離れるな
帰り道。
妖精は旅人の腕に絡みついて歩く。
体をぴったり寄せる。
旅人は少しだけ眉を寄せる。
歩きづらい。
でも、ほどこうとはしない。
好きにさせておく。
妖精は満足そうに笑う。
「重いぞ」
「いいじゃん」
軽い声。
腕は離れない。
⸻
夜。
テントの中。
妖精は当然みたいに旅人の隣に潜り込む。
距離が近い。
さっきより、もっと近い。
体を押しつける。
旅人の服を掴む。
ぎゅっと。
「……おい」
妖精が顔を上げる。
少しだけ唇を尖らせる。
「キスして」
甘えた声。
旅人の呼吸が止まる。
理性が、ぐらつく。
腕の中の体温が近すぎる。
「……ダメだ」
低い声。
妖精が眉を寄せる。
「何で?」
旅人は目を閉じる。
少しだけ息を吐く。
「今日は終わり」
妖精が頬を膨らませる。
「ケチ」
旅人は苦笑する。
でも腕は離さない。
妖精はまた胸に顔を押しつける。
小さくつぶやく。
「明日は?」
旅人はしばらく黙る。
それから、
「……知らん」
妖精がくすっと笑う。
服を掴む指が、少し強くなる。
⸻
翌朝。
妖精が目を覚ましたときには、旅人は隣にいなかった。
テントの外に出る。
朝の空気が冷たい。
焚き火の前で、旅人が朝食の準備をしていた。
パンを温めている。
「起きたのか」
振り向かずに言う。
「うん」
妖精は隣に座る。
しばらくして、パンを渡される。
二人で黙って食べる。
朝の林は静かだ。
妖精は、ちらっと旅人の唇を盗み見る。
……キスしてくれた。
胸が、少しだけ熱くなる。
好きじゃなきゃ、しないよね。
パンをかじる。
抱かれてないけど。
胸が、きゅっと締まる。
でも。
大丈夫。
必要とされてる。
きっと。
自分に言い聞かせる。
旅人は何も気づかない顔で、焚き火をいじっている。
妖精は視線を落とす。
早く、夜にならないかな。
昨日したのに、
もう次の口づけが欲しくなっていた。
ーー
林を抜けると、町が見えてきた。
人口が多く、賑やかな町。
人の声。
荷車の音。
通りには店が並び、客引きが声を張り上げている。
旅人は背が高いので、よく目立つ。
「お兄さん、いい服あるよ!」
「お兄さん、今夜の宿は決まった?」
「うち寄っていきなよ!」
次々に声が飛ぶ。
妖精がきょろきょろする。
「すごい人気……」
旅人は眉をひそめる。
人が多い。
距離が近い。
妖精が少し後ろに下がる。
その瞬間。
旅人が妖精の腕を引く。
ぐっと。
自分の横に引き寄せる。
「離れるな」
低い声。
妖精が目を瞬く。
「うん」
素直に頷く。
旅人のすぐ隣を歩く。
人波が流れる。
妖精はちらっと旅人を見る。
腕は、まだ掴まれたままだ。
少しだけ胸が温かくなる。
「……迷子になりそう?」
妖精が小さく言う。
旅人は前を見たまま答える。
「お前がな」
妖精がくすっと笑う。
でも、腕は離さない。




