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同僚と妖精⑯ またな

 それから。


 同僚は妖精と距離を取った。


 理由は簡単だ。


 揺れる自分が、嫌だった。


 顔を見ると、思い出す。


 ロッカー。


 上目遣い。


『お前になら……触られてもいい』


 胸がざわつく。


 だから、避ける。


 仕事はする。


 必要なことは話す。


 でも、それだけだ。


 冗談も言わない。


 隣にも立たない。


 気づかないふりをする。


 それでいい。


 同僚はそう思っていた。


 ――妖精の方は、違った。


 あの日の言葉。


『俺はそんなの、絶対嫌だから』


 頭の中で、何度も繰り返される。


 同僚は、それから距離を取った。


 近づかない。


 目も合わせない。


 必要なことしか話さない。


(……やっぱり)


 妖精は小さく息を吐く。


(嫌だったんだ)


 当然だ。


 触りたくない、って顔だった。


 視界が、少しだけ滲む。


 妖精はそれ以上考えないようにする。


 笑う。


 いつも通り働く。


 同僚に近づかない。


 それでいい。


 そう思うことにした。


 それでも。


 胸の奥が、静かに痛んだ。


 ――そして。


 同僚の最後の勤務日が来た。


 朝は、いつもと同じだった。


 荷を運ぶ。


 畑を手伝う。


 仲間が笑う。


「今日で最後か」


「騎士様になるんだろ」


「うらやましい!」


 笑い声。


 村中が知っている。


 未来の騎士。


 その言葉が、何度も飛ぶ。


 妖精は少し離れた場所で、作業をしていた。


 視線を上げない。


 上げたら。


 きっと、何かがこぼれる。


 だから。


 最後まで、何も言わないつもりだった。


(何も残せなかった)


 昼過ぎ。


 作業がひと段落する。


 同僚は手袋を外す。


 少し迷う。


 それから、歩き出した。


 妖精のところへ。


 妖精は気づかないふりをしていた。


 荷をまとめている。


 手が少しだけ遅い。


 同僚は数歩手前で止まる。


「……よ」


 軽い声。


 妖精の手が止まる。


 ゆっくり振り向く。


 少しだけ笑う。


「どうしたの」


「今日で最後だろ」


「うん」


 短い沈黙。


 風が畑を揺らす。


 同僚は頭をかく。


「……まあ」


 少しだけ視線を逸らす。


「またな」


 妖精が目を瞬く。


「元気でね」


 すぐに言う。


 声は、思ったより普通だった。


 同僚が少しだけ笑う。


「お前も」


 それだけ。


 同僚は背を向ける。


 妖精は呼ばない。


 呼んだら。


 たぶん、声が変わる。


 だから。


 ただ、見送る。


 同僚の背中が遠くなる。


 仲間が声をかける。


「騎士様、またな!」


「彼女できたら教えろよ!」


 笑い声。


 同僚は手を上げる。


 軽く振る。


 いつもの調子だ。


 妖精はその背中を見ている。


 胸の奥が、少しだけ痛む。


 あっちで彼女できるのかな。


 いいやつだから、きっとできるよね。


 元気で、幸せに暮らしてくれればいい。


 泣かなかった。


 ただ、小さく呟く。


「……元気で」


 同僚の背中は、もう見えなかった。

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