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同僚と妖精⑬ 遠くへ行く人

 表彰式が終わる。


 歓声はまだ残っている。


 でも、同僚は戻ってこない。


「……遅いね」


 妖精が呟く。


 仲間は笑う。


「姫様に気に入られたんじゃねーの」


 妖精は笑えない。


(何か、あったのかな)


 少しして。


 同僚が戻ってくる。


「おかえり」


「ああ」


 短い。


 でも。


 どこか、ぼんやりしている。


「どうしたの?」


「ん? いや……」


 視線が少し泳ぐ。


 妖精は袋を見る。


「賞金じゃ、足りないの?」


「お母さんの手術費用」


 同僚はうなずく。


「今回の手術は受けられる」


 少し間。


「……けど」


「けど?」


 同僚は地面を見る。


「その先がな」


 軽い声。


 でも、軽くない。


「どうするの?」


 同僚が少しだけ笑う。


「実はさ」


 妖精の胸が鳴る。


「姫から騎士団に来ねぇかって」


 空気が止まる。


「スカウト?」


「ああ」


 ぶっきらぼう。


「今の給料の、二倍以上だってよ」


 仲間たちがざわつく。


「すげぇじゃん!」


「迷うことねぇだろ!」


 同僚は笑う。


 でも。


 ほんの一瞬だけ。


 妖精の顔を見る。


 すぐ逸らす。


「……何でもねぇ」


 軽く言う。


 でも。


 妖精の胸だけが、静かに痛む。


ーー


 次の日。


 同僚はいつも通りだった。


 朝から荷を運び、畑を手伝い、昼には仲間とふざけて笑っている。


 変わったのは、村人の反応だった。


「昨日すごかったね!」


「お兄ちゃん、カッコよかった!」


 通りすがりの子どもたちが声をかける。


 同僚は頭をぐしゃぐしゃに撫でる。


「惚れんなよ?」


 軽く笑う。


 それだけ。


 でも、周りの視線は前と違う。


「未来の騎士様だな」


 通りすがりの男が言う。


「任せとけ」


 差し入れの包みが増えていく。


 パン。


 果物。


 手当ての布。


 同僚は笑う。


 楽しそうだ。


 本当に。


 嬉しそうだ。


 妖精の胸が、きゅっと痛む。


(……よかった)


 本当に、そう思う。


 同僚が認められるのは嬉しい。


 誰よりも。


 それなのに。


 少しだけ、苦しい。


 こんな気持ちになるなんて。


(……心、狭いな)


 同僚は何も変わっていない。


 軽くて。


 ぶっきらぼうで。


 ただ少しだけ、


 遠くへ行こうとしているだけ。


 応援しなきゃ。


 そう思う。


 それでも。


 胸の奥が、じわりと痛む。


ーー


「よ」


 軽い声。


 振り向かなくても分かる。


「昨日の丸太、また今日も俺ら担当だって」


 同僚が肩に斧を担いで笑う。


 いつも通りの顔。


 昨日、騎士団の話をしていた人間と同じとは思えないくらい。


 妖精は少し遅れて歩き出す。


 丸太の山。


 重い木の匂い。


 いつもと同じ仕事。


 同僚が丸太を持ち上げる。


「ぼーっとすんな」


 ぶっきらぼう。


 でも、声は柔らかい。


 妖精は慌てて持ち上げる。


「……うん」


 同僚は気づいていない。


 きっと。


 妖精は丸太を抱えながら思う。


(いつまで、こうしていられるんだろう)


 騎士団。


 城。


 姫。


 同僚は、もう村の外に行こうとしている。


 それなのに。


 今はまだ、


 隣で丸太を運んでいる。


 同じ仕事をしている。


 同じ道を歩いている。


 でも。


 妖精の胸だけが、少しずつ苦しい。


(何もできない)


 引き止める理由なんてない。


 応援するしかない。


 それなのに。


 同僚の背中を見るたび、


 胸の奥が、静かに痛む。



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