同僚と妖精⑫
同僚が母親の手術資金を集めるために、夜も仕事をしていることを、妖精は知った。
昼は村の仕事。
畑の手伝い。
荷車の積み下ろし。
壊れた柵の修理。
頼まれれば剣の用心棒。
夜は倉庫番や遠くの商人の付き添い。
寝ている時間なんて、ほとんどない。
「大丈夫? 体……」
妖精が聞く。
同僚は肩を回して笑う。
「へーきへーき」
軽い。
いつもの顔。
「俺、無駄に丈夫だから」
でも、目の下にうっすら影がある。
指の関節が荒れている。
妖精は気づく。
「無理してる」
「してねぇって」
即答だった。
本当は、資金集めを手伝いたい。
……けど。
数日前のことを思い出す。
「自分で何とかする」
同僚はそう言った。
「前借りも断られてた」
それでも。
「だからって、お前が体売る理由にはならねぇ」
あのとき、同僚は本気で怒っていた。
もし別の方法で金を稼いだとしても、
きっと受け取らない。
そういう男だ。
少し間。
「そういや、剣大会で優勝したら金もらえるらしいんだ」
ぶっきらぼうに言う。
「だから今、鍛えてんだよ」
妖精の胸が鳴る。
まだ騎士でもない。
何者でもない。
でも。
本気だ。
「勝てる?」
妖精が聞く。
同僚は鼻で笑う。
「勝つ」
迷いがない。
軽い声なのに、重い。
その横顔に、少しだけ見惚れる。
(……好きだ)
言えない。
絶対に。
「お前は?」
不意に聞かれる。
「変なことしてねぇだろうな?」
あの夜のことを、遠回しに。
妖精は笑う。
「してないよ」
「へーきへーき」
同僚の真似をする。
同僚が眉をひそめる。
「マネすんな」
ぶっきらぼう。
でも、声は柔らかい。
距離は、近い。
触れない。
でも、近い。
妖精の心臓だけがうるさい。
同僚は気づいていない。
まだ。
ーー
剣大会の日。
村中が集まる。
歓声。
土煙。
同僚はいつもより静かだった。
でも、緊張している様子はない。
「死ぬなよ」
妖精が小さく言う。
同僚は肩を回す。
「死なねぇよ」
軽い。
「勝つ」
それだけ。
試合が始まる。
一回戦。
二回戦。
打ち合い。
汗。
血。
観客の歓声。
妖精の手が、ぎゅっと握られる。
最後の一撃。
土煙が上がる。
静寂。
次の瞬間、歓声が爆発する。
同僚が立っている。
肩から血が流れている。
額も切れている。
息は荒い。
でも。
笑っている。
妖精を見つける。
目が合う。
一瞬。
ほんの一瞬。
傷だらけの顔で、
にっと笑う。
そして。
片手を上げて、ピース。
ふざけたみたいに。
妖精の胸が、ぎゅっと潰れる。
涙が滲む。
馬鹿だ。
なんでそんな顔するんだ。
勝った。
ちゃんと勝った。
でも。
あんなに血を流して。
あんなに削って。
それでも笑う。
(好きだ)
言えない。
絶対に。
同僚が降りてくる。
「見たか?」
息が荒い。
「勝った」
子どもみたいに笑う。
妖精は震える声で言う。
「……かっこよかった」
同僚が一瞬、固まる。
「は?」
耳まで赤い。
「何言ってんだ」
視線を逸らす。
でも。
ほんの少しだけ。
誇らしそうだ。
ーー
表彰式が始まる。
まだ歓声は収まらない。
同僚は血を拭かれ、簡単な包帯を巻かれて、壇上に立っていた。
ざわめきが広がる。
姫が歩み寄る。
侍従が差し出した袋を、姫が自ら手渡す。
金貨の重み。
拍手が湧き上がる。
「賞金は何に使うのですか?」
誰かが声を上げる。
同僚は袋を持ち上げる。
「うまいもん食います」
一瞬、間。
「……冗談」
会場がどっと沸く。
同僚は照れたように頭をかく。




