表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/80

王子と妖精③

その夜も。


その次の夜も。


王子は同じ妖精を呼んだ。


最初は、ただ抱きしめて眠るだけ。


それで十分だった。


ある夜。


指が、髪に触れる。


撫でる。


妖精は動かない。


次の夜。


額に、口づける。


短く。


「……嫌か」


「いいえ」


それ以上は、進まない。


抱けるのに。


抱かない。


静かな夜が続く。


抱かれていないのに、


胸の奥だけが、熱い。


額に。


頬に。


やがて、唇に触れる。


短く。


重ねる。


妖精の指が、


王子の衣を、そっと掴む。


唇が、離れない。


掴んだ衣を、妖精は放さない。


王子の手が、背に回る。


「……いいのか?」


低い声。


妖精は目を閉じる。


「はい」


指が、王子の衣を強く掴む。


次の瞬間、


距離が、消えた。



夜は長かった。


息が重なり、


指が絡み、


名を呼ぶ声が何度も途切れる。


何度も。


確かめるように。


もう、越えていた。


ーー


朝。


光が、白い。


同じ寝台。


距離が、少しだけ遠い。


妖精は先に身を起こす。


衣を整える。


王子は何も言わない。


「……帰るのか」


低い声。


妖精は振り向かない。


「はい」


沈黙。


王子の指が、わずかに動く。


「今夜も、来てくれ」


一瞬だけ、間。


「……はい」


それだけ。


それ以上は、ない。


何度も熱い夜を過ごすようになった。


廊下で、妃とすれ違う。


王子は足を止めない。


だが。


「最近」


妃の声が静かに落ちる。


「同じ妖精をお呼びのようですね」


王子の足が、わずかに止まる。


「……何のことだ」


「以前は、毎回違っていたでしょう」


静かな声。


「遊びだと、思っていました」


一拍。


「……少し、嫉妬します」


妃の声は穏やかだった。


王子は目を逸らす。


「遊びに決まっているだろう」


即答。


強い声。


「たまたま同じだっただけだ」


妃は何も言わない。


ただ、静かにうなずく。


「そうですか」


それだけ。


王子は踵を返す。


廊下の角。


柱の影。


そこに、立っていた。


白銀の髪。


妖精だった。


視線が合う。


逸らせない。


聞いていたのか。


分かりきっている。


妖精は一礼する。


「……お呼びでしょうか、殿下」


声は、いつも通り。


完璧な距離。


王子の喉が詰まる。


「遊びに決まっている」


自分の声が、耳に残る。


妖精は、何も言わなかった。


その夜も、王子に抱かれた。


唇も、指も、拒まない。


けれど。


前のように、


王子の衣を握りしめることはなかった。


ただ、静かに目を閉じている。


王子の胸が、わずかにざわつく。


「……気に触ったか?」


妖精は目を開ける。


「何を?」


本当に分からない、という顔。


王子は言葉を失う。


「……何でもない」


それ以上、踏み込めない。


妖精の手は、


王子に触れないまま、


布の上で止まっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ