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同僚と妖精⑩

 妖精なんて興味ない。


 本当だ。


 職場でたまたま一緒になっただけの妖精。


 綺麗な顔してると思った。


 でも、別に、それだけだった。


 特別扱いするつもりはなかった。


 職場でのミス。


 妖精だからって全部押し付けるのは違うと思った。


 だから口を出した。


 それだけ。


 正義感とか、そんなんじゃない。


 ただ、気に食わなかっただけだ。


 あいつの瞳が、妙に真っ直ぐで。


 純粋で。


 だから、からかいたくなった。


「金もらってるし」


 軽口のつもりだった。


 まさか。


 本当に有金全部、渡してくるなんて思わなかった。


 あの封筒の重さ。


 手の震え。


 疑いもしない目。


 怒ると思った。


 罵ると思った。


 なのに。


 恨みも、軽蔑も、ぶつけてこない。


 ただ、水で腹を満たしていた。


 あれを見たとき。


 胸の奥が、妙に重くなった。


 どう扱われてきたかは知らない。


 ただ、まともじゃなかった。


 だから、触れなかった。


 触れたら。


 あいつは、差し出す。


 簡単に。


 拒まない。


 それが分かったから。


 抱きしめた瞬間、分かった。


 あれは、俺が欲しかった。


 守るためじゃない。


 欲しかった。


 俺も、他のヤツらと同じだ。


 だから、離れた。


 走りながら、手が震えていた。


ーー


 母親の病状が悪化したらしい。


 手術が必要だが、費用が足りない。


 男が上司に頭を下げているのを、妖精は偶然聞いてしまった。


「前借り、できませんか」


 低い声。


 軽さがない。


 必死だ。


 家族が一番。


 本当だった。


 妖精はその場を離れる。


 胸の奥が、ざわつく。


 助けたい。


 でも、俺にできることは。


 そのとき。


「あのさぁ」


 背後から声。


 職場の先輩。


 にやにやしている。


「一回、ヤらせてくれねぇ? 金払うから」


 いつもの顔だ。


 いつもの誘い。


 何度も向けられてきた視線。


 価値は、そこにある。


 それなら。


 それでいい。


「いいですよ」


 自分でも驚くほど、声は平坦だった。


 先輩が笑う。


「話早ぇな」


 妖精は視線を上げない。


 ただ、胸の奥で思う。


 これで足りるなら。


 あいつの母親が助かるなら。


 金を渡して、謝ろう。


 触ろうとして、悪かったって。


 先輩が肩を抱いてくる。


 むせ返るような香水の匂い。


 不意に思い出す。


 アイツの腕は、優しかった。


「お前見てるとムラムラすんだよな」


 生まれつき綺麗なこの容姿のせいなのか?


 引っかかるも


「よく言われます」


 声は平坦。


「やっぱ? エロいもんな、お前」


 笑いながら、腰に腕を回される。


 男子トイレへ引かれる。


 足は止まらない。


 止める理由が、ない。


 これで足りるなら。


 あいつの母親が助かるなら。


 価値は、そこにある。


 個室の扉に手がかかる。

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