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同僚と妖精⑦ 知りたい

 この手の男は、モテる。


 分け隔てなく接し、

 距離を詰めすぎず、

 軽くて、重くない。


 だから、好かれる。


 夕方。


 倉庫裏で足を止めた。


 声がする。


「ちょっといい?」


 女の声。


 妖精は無意識に足を止めた。


 見ようとしたわけじゃない。


 だが、聞こえる。


「俺?」


「うん」


 男の背中が見える。


 女は俯きながら言う。


「前から、好きで……」


 胸の奥が、きゅっと縮む。


 聞くな。


 立ち去れ。


 そう思うのに、足が動かない。


 男は黙って聞いている。


 笑わない。


 からかわない。


 軽く受け流さない。


 真面目な顔。


「……ごめん」


 短い。


「今は、そういうの考えてなくて」


 言い訳もしない。


 曖昧にもしない。


 ただ、断る。


 女は小さく笑って、「そっか」と言った。


 去っていく。


 男はその場に立ったまま、息を吐く。


 妖精は物陰に隠れたまま、動けない。


 断った。


 安心したのか。


 違う。


 胸の奥が、妙にざわつく。


 もし、受けていたら。


 その場で笑っていたら。


 自分はどうしていただろう。


 関係ない。


 俺には関係ない。


 そう思うのに。


 男がふと、こちらを見る。


 目が合う。


 妖精の心臓が跳ねる。


 見られていたのは、どちらだ。


 胸の奥が、ちくりと痛む。


 これは何だ。


 怒りか。


 軽蔑か。


 それとも。


 ――違う。


 その名前を、まだ認めたくない。


 物陰から出る前に、声が落ちた。


「なーに見てんだよ」


 軽い。


 いつもの調子。


 妖精は肩を強張らせる。


「見ていない」


「嘘つけ」


 男が近づく。


 足音はゆっくりだ。


 逃げ道を塞ぐほどではない。


「面白かったか?」


 冗談めかす。


 妖精は視線を逸らす。


「関係ない」


「そりゃそうだ」


 男はあっさり言う。


「何で、断った」

「恋愛に、興味がないのか?」


 思わず口から漏れた。


 自分でも、なぜそんなことを聞いたのか分からない。


 男は一瞬、こちらを見る。


「俺のこと知りたい?」


 軽い。けれど、目は軽くない。


「そんな訳……」


「じゃ、教えない」


 距離が、半歩だけ縮む。


 触れない。


 だが、逃げ場が狭くなる。


 妖精は唇を噛んだ。


 胸の奥が熱い。


 知りたいのか。


 何を。


 男が誰を好きか。


 誰に触れるのか。


 誰を選ぶのか。


 それを。


「……知りたい」


 かすれた声。


 自分でも、驚くほど素直だった。


 男の目が、ほんのわずかに見開かれる。


 すぐに戻る。


「へえ」


笑うでもなく、からかうでもなく。


「じゃあ、一個だけ教えてやる」


 間。


「俺の今一番大事なものは家族」


 ほんの一瞬だけ、目が逸れる。


「それだけ」


 胸が、どくんと鳴る。


 それは。


 優しさか。


 逃げか。


 責任の放棄か。


 分からない。


「で?」


 男が首を傾ける。


「それ聞いて、どうすんの」


 答えられない。


 選ばれたいのか。


 選ばれたくないのか。


 自分でも、分からない。


 男は一歩下がる。


「続きは、秘密」


 背を向ける。


 残された鼓動だけが、やけに大きい。

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