同僚と妖精⑥ 特別じゃない
荷を運びながら、何気ない会話が耳に入った。
「彼女いんの?」
「いないっす」
即答。
笑い声。
「じゃあ酒飲みに行かね? 綺麗な妖精がいっぱいいる店あってさ」
妖精の手が、わずかに止まる。
聞くつもりはなかった。
だが、足が動かない。
男は、ちらりとこちらを見る。
ほんの一瞬。
「そーいうの、興味ないっすから」
軽い声。
冗談の延長みたいな調子。
「嘘つけ」
「ほんとっすよ」
笑いが重なる。
妖精は視線を落とす。
胸が、妙にざわつく。
興味ない。
何に。
妖精に興味がないという意味か。
男に興味がないという意味か。
“妖精遊び”に興味がないという意味か。
どれだ。
分からない。
分からないから、余計に苦しい。
興味がないなら、なぜ見る。
興味があるなら、なぜ触れない。
軽いくせに。
曖昧なくせに。
はっきりしろ。
妖精は荷を持ち直す。
平気な顔をする。
だが、心の奥が、落ち着かない。
――興味ない。
その言葉だけが、やけに残った。
興味ない。
その言葉が、どうしても引っかかる。
足が、勝手に動いた。
「……本当に、興味ないのか」
男が振り向く。
「何が」
「妖精に」
一瞬、男の眉がわずかに上がる。
「なんで」
軽い声。
いつもの調子。
妖精は視線を逸らさない。
「俺の周りは、いつも興味があるやつしか、いなかった」
静かな声。
感情は出していない。
だが、言葉の奥が硬い。
男は、数秒黙る。
「ふーん。そっか」
それだけ。
あっさりしすぎている。
胸がひりつく。
「確かに」
男が一歩、近づく。
「綺麗な顔してんもんな、お前」
顔を覗き込まれる。
距離が近い。
初めてだ。
触れられはしない。
だが、視線が真正面からぶつかる。
心臓が、跳ねる。
体の奥が熱くなる。
嫌だ。
そうじゃない。
それは聞きたい答えじゃない。
「……それで」
妖精の声が、わずかに掠れる。
「興味は?」
男は、ほんの少しだけ目を細める。
「秘密」
笑うでもなく、からかうでもなく。
それだけ。
距離が、すっと戻る。
息が、遅れて落ちる。
妖精は立ち尽くす。
鼓動だけが、やけにうるさい。
ーー
秘密。
それだけなのに。
頭から離れない。
興味があるのか、ないのか。
からかわれただけなのか。
分からない。
分からないまま、仕事が始まる。
妖精は無意識に、男を目で追っていた。
隙あらば、視線が向く。
まずは確認だ。
男が好きなのか。
女が好きなのか。
どっちだ。
男は、いつも通り軽い。
「おー、重い?持つ?」
女にも。
「昨日の続きどうなった?」
男にも。
肩を叩く。
笑う。
距離は一定。
極端にどちらかが多いわけでもない。
誰にでも同じ。
分け隔てなく。
元々、そういう男だ。
妖精は視線を逸らす。
もちろん。
俺にも、特別な感情はない。
ないはずだ。
そうでなければ困る。
胸の奥が、ちくりと痛む。
何に対しての痛みか、分からない。
興味がないと言われたことか。
秘密と言われたことか。
それとも。
誰にでも同じ、という事実か。
男がふと、こちらを見る。
すぐに逸らす。
心臓が、跳ねる。
何もない。
何も起きていない。
ただ、観察しているだけだ。
それなのに。
胸の奥の痛みが、消えない。




