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少女と竜は今日も旅をする。  作者: 白浜ましろ
Episode 6.はじまりの願い星
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星のきらめきを追って


 ティシェとトールの間を、きらめきが過ぎ去った。

 星のきらめきにも似た、強烈で鮮やかな、あの――。

 それが何かを理解した瞬間、ティシェの喉から呼び声が滑り出た。


「グローシャっ!」


 後方から瞬時に竜が駆けて来る。

 反射的にトールは道を空けたが、グローシャは彼を見ることなく前を過ぎて行く。

 ティシェが背に跳び乗ったのを確認すると、グローシャは再び駆け出す。

 向かう先は洞窟の奥。暗闇に包まれ、その先は見通せず窺い知れない。

 グローシャが体内に灯の珠を巡らせ、身体に光を帯びさせ始めれば、周囲もほんのりと照らし出され始めた。

 だが、彼女達がその場から離れてしまえば、残されたトール達は次第に暗闇に覆われることになる。

 遠くなっていく背を見送るつもりはない。

 ――と。ふいに、つきん、と頭が痛んだ気がした。嫌な気配を感じつつ、トールは軽く頭を振って後方を振り返り、アーリィを呼んだ。


「アーリィっ! ティシェ達を追いかけるよっ!」


 訝しげにしながら、角先にラッフィルを留まらせたアーリィがトールの横に並ぶ。

 トールは懐にラッフィルを潜り込ませてからアーリィの背に跳び乗り、グローシャを追うため彼らも駆け出した。

 けれども、天色の瞳が背のトールを見る。その瞳が説明を求めていた。

 トールは彼女の角先に手を添え、視線は前方を据えたまま答える。


「あのきらめきは、星願の竜のものだ」


 さしものアーリィも天色の瞳に驚きを滲ませ、不機嫌に少しだけ唸る。

 改めて前方に視線を据えると、駆ける足に力を入れて速度を上げた。




   *




 奥へと進むにつれ、あのきらめきが強くなる。

 鞍もなしにグローシャの背に跨っているため、普段と違って揺れは直接感ずる。

 落ちることのないよう、均衡を保つことに集中しなければならないのに、ティシェは気持ちが逸って急いていくのを自覚していた。

 グローシャもそれを感じ取っているのか、背のティシェを気にしつつも、駆ける速度を緩める様子はない。

 それからややし、後方から声が飛ぶ。


「ティシェっ!」


 ちらりと肩越しに振り返れば、大きな陰影。

 すぐにグローシャの灯にほんのりと暗闇から浮き上がった。トールとアーリィだ。

 ティシェ達に追いつき、トールはほっと息を吐き出す。


「やっと追いついた。ティシェ、落ち着こうよ。そんなに急がなくても――」


「急がなければ行ってしまうかもしれない」


 口早に彼の言葉を遮り、ティシェは視線を前方の方へ戻すと、その先を睨むように蒼の瞳を細めた。

 その視線はどこか鋭く、彼女の放つ気配も少しだけ刺々しい。

 グローシャがぐるると小さく唸った。


「でも、この先にあの竜が居るって決まったわけじゃないよね」


「あの強烈で鮮やかなきらめきは、星落つる跡地の比ではない。かの竜のものだろう。トールは見たことないか?」


「……まあ、あるけど。あの強烈さだもん、忘れられないよ」


 それは今でも鮮明に思い出せるほどに。

 だからトール自身も、この先にかの竜が居るのだろうなと、確信に近いかたちで思っている。だが。


「だから、逸る気持ちもわかるけど、少し落ち着こうよ……というか、落ち着いてよ……っ」


 つきん、とまた痛んだ。軽く顔をしかめ、トールは頭を手で押さえた。

 トールの異変に気付いたアーリィは、駆ける速度を少し緩めると、背の彼を見やり、フルルゥと気遣わしげに声をもらす。

 それに対して、大丈夫だよ、と小さく笑って応えるも、彼を見やる天色の瞳に険がはらんだ。

 やがて、アーリィの足が止まってしまう。

 グルルと強く唸る声は、嘘をつくなと小言を言われているようで、トールは痛みに顔をしかめつつも、困ったように眉尻を下げた。


「どうした?」


 先を行っていたティシェとグローシャが、トールとアーリィのやり取りに気付いて戻って来る。

 グローシャからの灯で周囲がほんのりと明るくなると、トールの様子にティシェも気付く。


「体調が悪いのか?」


「……ちょっと頭が痛いだけだよ」


 トールの返答に、アーリィがぐるっと唸って身体を揺すった。

 ほら、嘘だった、と不機嫌に天色の瞳が彼を睨む。


「アーリィ、ごめん。嘘ついたつもりはなかったけど、素直に言えばよかったよね。それは悪かった。でも、お願いだから揺らさないで、頭に響く……」


 硬く目をつむって頭を押えるトールに、さすがのアーリィもすぐに動きを止めて心配げな目を向けた。


「いつからだ?」


 トールの顔を覗き込んでティシェが問う。

 心配そうな蒼の瞳が灯で揺らめいた。


「……奥に進んでから、だんだんと、かな。空気がなんとなく重いなって、感じはじめてからかも」


「空気が、重い……?」


 小さく眉を寄せるティシェに、顔をしかめたまま、ゆっくりとまぶたを持ち上げたトールが首を傾げる。


「そんな感じ、しない?」


「いや、私はそんな感じは……」


「……そっか。でも、アーリィは何か感じてる」


 自分が乗る竜に話を向けてみれば、不機嫌にグルルと唸りつつも応じる声が上がった。


「いつもより、気が立ってる」


 痛みをやり過ごすために深く息を吐いて、トールはアーリィの首筋を撫でる。

 それでもまだ彼女の気は立ったままだが、幾分かは落ち着いたのか、フルルゥと頭を軽く振った。


「グローシャは――」


 トール達の様子を見ていたティシェも、グローシャの様子を窺う。

 彼女はぐるると少しばかり唸りつつも、問題ないと真っ直ぐティシェを見返した。

 次いで下の影へと視線を落とす。

 影の中で紅の双眸が不機嫌に瞬いた。


「ぞわぞわ、する」


「何がだ?」


「わからない。けど、ぞわぞわ、する」


 ぶるりと身を震わせると、カロンは影の奥深くに沈んでしまう。

 ティシェは顔を上げ、トールと顔を見合わせた。

 彼のしかめられた顔は辛そうで、ティシェはぐっと口を引き結んだ。


「トールは先に戻っていてくれ」


「え、ティシェは……?」


「私はこのまま奥に進む。――グローシャ、大丈夫そうか?」


 グローシャが軽く身を震わせ、ピルゥとティシェに応じて身を翻す。

 トールが呼び止めようと口を開く前に、彼女達はずんずんと奥へ行ってしまった。

 灯りが遠退くということは、残されたトール達は、やがて強まる暗闇に包まれるだろう。今だってほら、数歩先でさえ闇に溶けていく。

 痛みに顔をしかめつつ、トールは億劫げに顔を上げて、ティシェ達が消えていった暗闇を見やる。


「……灯竜灯は外に置いてきちゃったし、真っ暗な中戻るのも危ないし」


 フルル、と同意の声がアーリィから上がる。


「結局は僕達も奥に進む、しか、ないよね……っ」


 う、いたい。と痛みに項垂れると、天色の瞳が大丈夫なのかと問うてきた。


「だいじょ――」


 ぶだよ、と答えようとすれば、その瞳がすぅと細められる。

 トールはその瞳の鋭さに、うっ、と言葉を詰まらせ、視線を逸らした。そして、観念して息を一つ落とすと、改めて向き直る。


「……我慢する。だから行こう。灯竜がいなくちゃ、灯煌石だってただの石で、道は照らしてくれない」


 置いていかれたら、それこそやばいし。

 と下手くそに、にっと笑って見せたが、これが強がりなものだと、きっとアーリィには気付かれているだろう。

 けれども、彼女は嘆息一つで納得してくれた。

 それがフ(・)リ(・)だろうが構わない。結局のところ、奥に進むしかないのだから。

 アーリィらが嫌うために、普段は懐中電灯は持ち歩かないのだが、これからは持ち歩くようにした方がいいのかもしれない。

 そんなことを、トールは痛みで鈍る頭でぼんやりと考えていた。




   *



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