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第76話 竜の姉妹

 ヴェロニカとレヴィアの役割は陽動だった。

 できる限り巨大キメラの気を引いて、ラッシュたちやエルフたちから注意を逸らす。


 とはいえ、彼女ら世界でも屈指の戦闘力を持つ竜人族。

 さらに彼女らは、その中でも特に最強クラスの戦士。


 この二人が揃うという事はどういう事か。


「ガアアアッ!」


 ヴェロニカが咆哮や拳撃で壊し焼き尽くす。


「――フッ!」

 

 次いで、レヴィアが辺り一帯を凍りつかせる。


 圧倒的な破壊の嵐と絶対凍土。

 魔法大隊の大規模攻撃に匹敵する殲滅攻撃が巻き起こる。


 ……とうに取り巻きのキメラ魔物の大群など全滅していた。


「オオオオオオオオオオオオオンッ!」


 我慢できないとばかりに、押し潰してやろうと、巨大キメラが何十メートルにも及ぶ左手を、彼女らに向けて張り手のように振り下ろす。


「フンッ!」


 だが、ヴェロニカは真上から迫る大質量を真っ向から両腕で受け止めた。


「グギギギギギ!」

「何を真正面から受け止めているのですか、この愚姉は」


 呆れたようにレヴィアは巨大キメラの左腕を凍らせる。


 しかし、彼女といえど、こんな巨体を氷漬けにするなんて不可能だ。


 だが、一瞬だけの凍結。彼女からすればそれだけで充分だった。


「そりゃあっ!」


 ヴェロニカは凍った腕を蹴り飛ばす。


 根元からボギン通れた腕はあらぬ方向へと落ちていく。


 巨大キメラは再生を開始するも、レヴィアの狙いは別にあったてめ、特に気にはしない。


「熱反応を幾つか感知しました。胴体の中央の真ん中……、なんだかんで手堅い場所に潜んでいましたね」


 レヴィアはニヤリと笑う。

 こちらこそが彼女の狙いだった。魔力を帯びた微細な熱。


 即座に彼女はガルドフに伝えるために簡易の使い魔を飛ばす。


 だが、その隙をついて、巨大キメラから伸びてきた触手が、レヴィアの足に絡みついた。

 レヴィアは凍らせようとするが、効きが弱い。


「耐性!? ……しまった!」


 レヴィアは抵抗しようとするも、触手の力は思っていた以上に強い。

 そのまま引き摺り込まれるなり、足をへし折られるか。

 その前にいっそ足を切断しようか、と手から氷刃を生み出そうとする直前。


「おい。私の可愛い妹に気安く触れるなよ」


 ヴェロニカが放った咆哮が、レヴィアに纏わりつく触手を、……どころか他の触手も全て一瞬で焼き払ってしまった。


「ど、どこにそんな力が……」


 あれだけ暴れておいて、なおも衰えないスタミナ。

 それ以前にダンジョンでの戦いでかなり消耗していたはずだ。


「おお。預けてた物を聖女から返してもらってな」

「?」


 レヴィアは知らない。

 緊急時と言う事で、シスカに預けていた力の半分を返還させてもらったと言う事に。

 今まで彼女は半分の実力で戦っていたという事実に。


 つまり今のヴェロニカは正真正銘の全力全開。

 そのまま彼女は闘気を込めた拳で触手を強引に殴り千切る。


「待ちなさい。下手な特殊攻撃は相手に耐性を……」

「耐性? 知るか。だったら、前の私よりも強くなればいい事だ!」


 その勢いは一向に衰える様子はない。

 むしろ触手の方が再生スピードが弱まっていた。


 出鱈目であった。


「いくぞ、レヴィア。こいつと遊ぶのは楽しいが、遊び過ぎてエルフの里まで巻き込んでは目も当てられんからな。もう少し真面目に協力しよう」


 やはり違う。

 以前のような戦いだけを求めるような部分が薄らいでいる。

 いや、それとも……幼い頃より自分にも向けてくれた優しさが……。


 レヴィアの心中に黒い靄が生まれる。 


「協力? 今さら何を……!」


 気付けば、レヴィアの口から無意識に言葉が漏れていた。


「……今さら何を言っているのですか。あなたは私を捨てたでしょうっ!」


 レヴィアは吐き捨てるように、今まで溜め込んでいたものをぶちまける。


「へ? 捨てた? 何の事だ?」


 訳が分からないと言った顔をするヴェロニカ。


 なんて白々しい女だろう。

 見捨てておいてしらばっくれるとは。いや、忘れているのか。

 所詮は自分もその程度だったという事か。


 やはりここで殺すべきか、レヴィアは殺意を漲らせるが、当のヴェロニカは思い出したようにポンと手を叩く。


「……ああ、もしかして別行動取る前に襲ってきた魔物か? いや、あんな魔物なんてお前一人でも欠伸混じりで倒せるだろう?」

「……は?」


 レヴィアは硬直していた。


「一応は遠くから見てたぞ。案の定一人でもやれたし、もう私の御守りは必要ないなって思ってそのまま行ったんだが。……ちゃんと別れの挨拶ぐらいはしておくべきだったか?」

「……」


 僅か数秒。

 気まずい沈黙が二人の間に流れた。

 その隙をついて、新しい触手が伸びていく。


「あああああもおおおおおおお! この馬鹿姉がああああああああああああああ!」


 その直前に、レヴィアの怒号と共に猛吹雪が起こる。


 凍らせる。凍らせる。凍らせる。


 全てを何もかも凍らせていく。


 まさしく、先にヴェロニカが言っていたように、耐性を作っても上書きするように、それ以上の凍気をもって三分の一を凍り付かされた巨大キメラは身体を鈍らせる。


「ぜえぜえ!」

「お、おいレヴィア……」


 珍しく狼狽気味のヴェロニカにレヴィアは向き直る。


「いきますよ。ヴェロニカ」

「お、応さ。久しぶりに姉妹で暴れるとしようかっ!」

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