第66話 ガルドフとのダンジョン攻略
ガルドフと共にダンジョンを進み始めて、どれぐらいの時間が経過しただろう。
迷宮のようなダンジョン区域に入った僕らは、既に数えるのも面倒になった魔物たちとの戦闘を重ねていた。
僕は魔物の頭に剣を突き立て、引き抜く際に後ろにいた別の魔物の首を切断する。
「良い腕だな」
「それはどうも」
ガルドフからの賛辞に僕はやる気なく返す。
当然と言えば当然だが、僕らの間には一定の緊張が維持されている。
互いに手は出さない、と僕ら自身は約束したが どちらかの援軍が来ればこの協力体制は瓦解するというのが僕の考えだ。
こっちのヴェロニカはともかく、合流した向こう……魔王軍が素直にそれに従ってくれるとも思えない。例え上司であるガルドフの命令だったとしても、仇敵である僕をみすみす見逃してくれるだろうか?
希望的観測はやめた方が良いだろう。
決して気を抜くことはできない。
……とはいえ、そんな張り詰めた空気で一緒に行動し続けると、こちらも精神が限界が来る。
「一つ聞いていいかな?」
「なんだ?」
「あなたはなんで魔王軍に入っているんだ?」
ふと、僕はガルドフにそんな質問をしていた。
実際に気になっている事ではあった。
獣人は魔族とは違う。
かつては差別されている地域も多かったが、現代ではほとんどなくなっている。
現にゴラゼオスとの戦いも、獣人の部族が多く参加してくれた。
ならば、なぜ彼は魔王軍に所属しているのか。
「ああ、たしかに昔と比べれば獣人族は大分扱いは良くなったと聞いたな」
ああ、そうか。……やはりそうだったか。
薄々気付いていた。
「そもそも扱いが良くなったのも戦後の話だし、広まったのもあくまで風潮であろう。そう簡単には変わらぬさ。同じような目に合っている所は他にもいくらでもある。はるか以前より人間たちより放逐されアイシア様に拾われた。ただそれだけの話だ」
なんてことのないように、ガルドフは言う。
聞いた自分のお気楽さに腹が立った。
僕だって、まだ一部の国……階級や貧富の差が激しい国では差別や迫害は続いていると聞いていたはずじゃないか。
今さら僕は何をショックを受けているのか。
「何だ、その顔は。責任でも感じているのか? 傲慢だな」
僕の顔を見て、ガルドフが笑う。
だが、その笑いには嘲りと不快さが入り混じっていた。
「勇者とて万能ではあるまいに。貴様は魔王討伐という貴様の為すべきことをした。我らは我らのなるようになっただけだ。いちいち責を勝手に背負って同情するな。逆に鬱陶しいぞ」
「……ごめん」
思わず謝ってしまう。これも彼から言わせれば見当違いなのだろう。
それでも僕は悔しかった。
「――無駄話はここまでだ」
ガルドフに促されて、僕は武器を構える。
凄まじい気配がこちらに向けて近付いてくるのがわかったからだ。
何かがこちらに向けて一直線に突撃してくる。
音からして壁を破壊しながら進んでいるようだ。
――ドゴオオオオオオオオオンッ!
壁を破壊して現れたのは、今までと違う新しい魔物であった。
「油断するなよ。コイツは少しばかり骨があるぞ」
「みたいだね」
今までの爬虫類の魔物とは違う。
体中から羽毛のような毛皮に包まれ、側頭部から曲がりくねった二つの角を生やしている。
その姿はさながら闘牛のようでもある。
「ブゴオオオオオオオオ!」
魔物が吼えると共に、二つの角の間からエネルギーが集めていく。
……あれは魔力を凝縮させているのだ。
直後、それは発射される。
「「……!」」
僕らはどうにかかわすも、その魔力弾は後ろの壁をたやすく貫通していった。
「直撃すれば終わりだね」
「もう一撃来るぞ」
遠くから魔力弾が爆発する音が聞こえて来た時には、すでに二発目を撃ち出す直前だった。
くそっ。思っていたよりもチャージ時間が短い……!
僕は魔物に向けて突きを放つ。
ガギンと弾くような音が響く。
魔物は角を使い、僕の突きを防いだのだ。
思っていたよりも知能が高く、器用だ。
ならば、と僕は攻め方を変えようとする。
直後、僕の腕の震えが止まらない。なんだか眩暈がしてきた。
これは今までの疲労か?
まずい。もう本当に限界かも知れない。
「……これは温存しておきたかったのだがな」
こちらの様子を見て、諦めたように呟いたガルドフは、静かに魔物の眼前に立つ。
「馬鹿な。格好の的だぞ! 自殺行為だ!」
「黙って見ていろ」
僕の叫びを無視して、ガルドフはその場を動かない。
案の定、魔物は魔弾を撃ち出す。
当然、ガルドフは直撃する。
「グオオオオオオオオオオ!」
だが、ガルドフは耐えきって見せた。
彼の体中から凄まじい魔力が駆け巡っていた。
「……ふぅ。返すぞ。ガァッ!」
ガルドフの咆哮。
それはついさっき喰らった魔力をそのまま丸ごと……いや、何倍にもして衝撃波に変えて跳ね返したものだ。
「グモ――⁉」
魔物は身体を支えていた四足を残して丸ごと吹き飛んだ。
カウンター魔法だ。通常魔法を発動させるような素振りはなかった。
おそらくは身体に刻まれた魔法……スキルの類だろう。
まさか、あんな隠し玉があったなんて。
「反射咆哮、我のスキルだ」
「……魔力あったんじゃないか」
「なかったさ。相手の魔力をカウンターにしただけだ。貴様には晒したくはなったのだがな」
「それじゃあ、さっきの魔物に感謝しないとね」
苦笑しながら語るガルドフに僕も皮肉で返す。
「それよりも見ろ。さっきの魔物が開けた道だ」
ガルドフの言う通り、人が通れるほどの道が出来ていた。
しかし、いささか危険ではないだろうか。
「このまま迷宮で右往左往していても埒があかん。貴様とて限界だろう」
「さっきの体の負担は無くなったよ」
携帯していた解毒ポーションを飲んだら、だいぶ楽になった。
どうやら呪毒の類だったらしい。
……ええい。鬼が出るか蛇が出るか、だ。
魔物が出てきた穴を僕らは進んでいく。
やがて別の道に到達する。
そこは今までと比べて綺麗に舗装されていた。
僕とガルドフは顔を見合わせてさらに奥へと進む。
「ここは……」
「なるほど、ここがゴールというわけか」
辿り着いたその先には門がそびえ立っていた。
「臭うな。魔物たちの臭いだ」
ガルドフが顔をしかめている。
いつの間にか、僕らの周りには魔物が集まってきていた。
「どうする?」
「決まっているだろう。邪魔な物は全て薙ぎ倒す」
これが最後の戦闘になる事を僕らは祈った。




